手提げ袋の中に隠された「2億円」の現金。積水ハウスから55億円を騙し取った地面師グループで“パシリ”として動き回った男は、逃避行先の高級ホテルでなぜ涙を流したのか――。ネットフリックスのドラマ『地面師たち』でも話題を呼んだ大事件の舞台裏を、実在した実行犯の生々しい告白から紐解く。ジャーナリストの河合桃子氏の新刊『地面師連絡役カトウ: 積水ハウス55億円詐欺事件、ある実行犯の告白』(小学館)より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/続きを読む)
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手提げ袋の中には2億円
都営新宿線、森下駅近くの交差点でタクシーを待つ中年男。白い紙の手提げ袋ふたつを持ったその姿は一見すると街に溶け込んでいた。
だがその手提げ袋には、大手デベロッパーの積水ハウスから詐取した55億円のうちの2億円が入っている。
紙帯でまとめられた1000万円ひと塊が10個、それが横二列に透明のビニールでパッキングされた“ゲンナマ”だ。パッキングされた一万円札がそのまま紙袋に入っているため、すれ違う通行人にチラリとでも覗かれたら札束が丸見えになる。そのため、男はソワソワと落ち着かなかった。
「もう家には帰れない」――そう思っていた。
目の前に停まったタクシーに「とりあえず新宿に向かって下さい」と伝えた。
「そうだ、パークハイアットにしよう。ずっと憧れてた新宿で一番豪華なホテルに隠れよう。どうせならスイートで。とにかく誰もいない静かな場所に行きたい」
そう思いつきパークハイアット東京に予約の電話を入れるも、コロナ前の2017年6月当時、都内はインバウンドの観光客で溢れ返っていた。
人気の四つ星ホテルに当日予約で残されていたのは、40階台のキングベッドの部屋ひとつ。
客室の大きな窓からは富士山が眺められる。しかしこの男には目の前の眺望を楽しむ心の余裕はない。部屋に入るなり、紙袋を逆さにして1億円のパックふたつを乱暴に取り出した。その塊をしばらく無言で見つめた。
透明のビニールをビリビリと破り、紙帯で括られた1000万円――その筋の者たちの間では“レンガ”と呼ばれるひと塊を手に取った。
