「週刊文春」の人気連載「宇垣総裁のマンガ党宣言!」。フリーアナウンサーの宇垣美里さんが傑作マンガの数々を熱量たっぷりに評する本連載。これまで“不倫モノ”にハマれなかったという宇垣さんが初めてハマった、異色作への思いを綴った回を特別に無料公開します。
幽霊と不倫する妻。その愛の行方は⁉
少々潔癖で友人たちからは倫理観の鬼と呼ばれる私にとって、最近世に溢れる不倫モノははっきり言って鬼門であった。法を守れ!理性を保て! いい大人が優先順位を間違えるんじゃないよ!とどうしてもツッコミを入れたくなって物語に没入することができなかった、はずなのに。『ウシミツガオ』からはどうしても目が離せない。ていうか、これは何を見せられているんだ……!?
霊感の強い主婦の恵めぐ味みは、妊活中ながら夫の優二にはどうしても本音を話すことができなくて、いつも欲求不満を抱えていた。そんなある晩、寝室で夫との情事の最中ふと気配を感じると、そこには首のもげかけた幽霊の姿が。以降度々家の中で姿を現すようになった幽霊に、ゴーストだから「ゴウ」と名付けた恵味は、やがて彼に惹かれ、幽霊との関係に溺れていくようになる。
何をどうやったらこんな展開を思いつくんだ
エロありホラーあり、ラブあり、サスペンスあり。あらゆるジャンルの闇鍋のようでいて、奇跡的なバランスで独特の余韻を残す。幽霊との不倫というトリッキーな設定から、当初はばれてはならない秘密の恋のハラハラ感を描くものかと思いきや、夫と妻と幽霊の三角関係は瞬く間に変化し、本人たちの意識も変わっていくものだから展開がまるで読めない。
性的描写はかなりあけっぴろげでドキドキさせるものの、生々しいというよりはもはや景気がいいので、なんだか春画のようなありがたさがある。色々と物騒な世の中になってきたし、戦場に向かう武士よろしく弾除けに『ウシミツガオ』を懐に忍ばせておいてもいいのかもしれない、なんて。
不倫?しているのにもかかわらずどこか憎めない恵味の魅力も本作の抜けの良さに繋がっている。いつも必死で喜怒哀楽の全てが表情一杯に現れていて可愛らしい。死の予感すら感じさせていたゴウとの関係からいつしか未来への希望を見出し、どんどん活気づいていくそのたくましさといったら。心の通わない人間の夫より、気持ちの通じ合う幽霊に惹かれていく様を誰が断罪できようか。
首ももげ、腐り落ちた肌の間から奥歯がのぞく様は鳥肌が立つような恐ろしさがありながら、端々に色っぽさを感じさせる幽霊に思わずくらりとしてしまう。さすがの画力だ。幽霊ながら斬新な方法を使い恵味への愛を訴えるゴウの様子に応援したくなる一方で、過剰なほどに非現実的なものを嫌う優二の過去を知り、そちらにも気持ちを寄せざるを得ない。
煩悩から始まった幽霊との不倫は、外連味たっぷりに夫婦間のコミュニケーションの問題を描き出す。つくづく板垣巴留先生は生きとし生けるもの(と死んだ人)の細やかな感情とどうしようもなさを描くのが上手い。というか、漫画が上手い。
2巻の終わりのとある展開には思わず大爆笑。何をどうやったらこんな展開を思いつくんだ、と圧倒されつつ、そこで明らかになったゴウの過去が切なくて胸が締め付けられた。人間関係って絶えず後悔の連続なんだよな。ここから3人の関係はどこへ向かっていくのだろう。煩悩と狂気と渇望の果てに、愛の答えはあるのだろうか。
《「週刊文春」で連載中の「宇垣総裁のマンガ党宣言!」は、「週刊文春」誌面の他、「週刊文春 電子版」で過去回も読むことができる》
