かつて日本が統治していた台湾には、いまも各地に50を超える「日本神(にほんがみ)」が祀られている。なぜ異国の地で、日本人の神様が生まれたのか? 台湾各地を6年にわたって歩き、その実態を追い続けてきた映像作家の遠藤協氏に話を聞いた。そこから見えてきたのは、ホラーよりも生々しく、人間よりも人間臭い、ある驚くべき実態だった。
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鎮座する“軍服を着た神様”
大学の先輩である文化人類学者の藤野陽平氏から「台湾に神様になった日本人がいる。一緒に台湾に行ってカメラを回さないか」と誘われた遠藤氏。2019年4月、予備調査のつもりで台湾に向かった同氏は、現地の廟で衝撃的な光景を目にした。
三国志の関羽を神格化した関帝や王爺といった中国や台湾の有名な神様と同じように、どっしりと構えて見得を切る神像があるのだが、彼らが身につけているのは近現代の旧日本軍の軍服だったのだ。軍帽をかぶり、胸には勲章が並び、軍刀を帯びている。
「中華の意匠やシンボルがかたどられた台湾の廟の中に、旧日本軍の軍服を着た神様が祀られている。そのギャップに『これはただ事ではない』と感じました。
いったいこの“神様”がなぜ祀られているのか。『台湾は植民地時代を否定しておらず、親日だから日本人を神格化している』というような短絡的な捉え方では、大事なことを見過ごしてしまうに違いない。台湾人のものの考え方や宗教観をしっかり勉強していかないと見誤ってしまうと危惧しました」(遠藤氏・以下同)
「身元不明の骨」を放置できなかった人々…
日本の「英霊」という概念とは異なり、台湾の民間信仰では、人は死ぬと「鬼(亡霊)」と呼ばれる存在になると考えられている。子孫から適切に供養されていない身元不明の骨は「鬼」となり、生者に危害を及ぼす可能性があるというのだ。
「台湾南部に位置する港湾都市・高雄の『紅毛港保安堂』という廟では、旧日本軍の軍艦の模型が神体のように祀られています。ここは安倍晋三元首相の銅像が建てられたことでも知られていますが、もとは戦後に漁師が海で身元不明の骨を発見したことが神を祀るようになったきっかけでした。
身元不明の骨をそのままにしておけば『鬼』となって危険を及ぼす――そう捉えた当時の村人たちが、シャーマンを通じて霊の言葉を聴き、撃沈された日本軍艦の記録と突き合わせながら、神格へ定着させていったとみられています」
どの日本神を訪ねても、戦争遺跡や事故現場、飛行機の墜落現場、死体や骨の発見がきっかけになっており、死のイメージが濃厚なのだと遠藤氏は続ける。
「火葬場や墓そのものが廟になっているところもありました。『幽霊』や『亡霊』といった陰の存在を、神様という陽の存在に反転させていく文化の仕組みに、ますます興味が湧いていったんです」
取材を続けていると、現地の人々が日本人の神様にどのようなご利益を求めて接しているのかが見えてきた。

