写真家としてだけでなく、名文家としても知られる星野道夫さん。その静かで味わい深い文章を愛する人は多い。なかでも多くの人が「人生を変えた本」として挙げ、圧倒的な支持を得るのがエッセイ『旅をする木』。星野直子さんも「本当に大好きな1冊」と語るこの本が、ジャンルや国境を越えて愛されつづける理由とは?(前後編・前編はこちら)
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旅を続ける『旅をする木』
――『旅をする木』に入っているエッセイは朗読をされることも多いですが、近年音楽家の方とコラボしたり、YouTubeやステージで映像とともに紹介されたり、様々な広がりを見せていますね。紹介のされ方で特に印象に残っているもの、面白いと感じられたものはありますか。
星野 朗読の問い合わせは、以前からとても多いです。SNSやYouTubeで取り上げていただくこともありますが、私自身、積極的に見にいくことはあまりしていませんね。デジタルの世界にはなかなか馴染みきれていないところもあって。
少し前になりますが、島根県の今井美術館が立ち上げられた〈旅をする本〉というプロジェクト(公式サイト https://tabiwosuruhon.com/)は、本当に素晴らしいなと思いました。もともとはNHKの番組が発端だったのですが、最初は90冊の『旅をする木』を、今井美術館や星野ゆかりの方にお配りし、感想をサイトに書き込んでいただいた後、次の方に本を渡していくことで、本に旅をさせる――そういうユニークな取り組みなんです。いまも続いていて、サイトでいま何番目の本が、どこで誰に読まれているか、マップで見ることができます。『旅をする木』がいろいろな人の手から手へ渡っていって、手に取った人を励ましたり、思いがけず遠くまで、それこそ旅をしているんです。
――「木」に横棒を1本加えただけで、「本」になる。最初に聞いたときは、ダジャレのようだなと思いましたが、ここまでプロジェクトが続いてきているって、すごいことですね。
星野 ほかの新たな試みといえば、大きなスクリーンに星野が撮影した写真を投影し、そこからインスピレーションを受けた音楽家haruka nakamuraさんが即興でピアノを演奏、エッセイを私が朗読する〈旅をする音楽〉というイベントのときは、新しい世界が拓けた、と感じました。これまで伝えてきたのは、写真と文章だけの音のない世界。そこに音楽が加わると、イマジネーションが何重にも広がっていく感じがしたんです。harukaさんもすごく星野のファンでいてくださって、その世界観を届けていきたい、と寄り添ってくれるような音楽でした。若い人たちに繋いでいきたいという思いも語って下さって、本当にありがたいです。
不定期ではありますが、ナレーター・声優である磯部弘さんの朗読舞台〈悠久の自然 アラスカ〉も10年にわたり行われています。これも、作品を愛してくださっているからこそ、です。
――星野さんは素敵なエッセイをたくさん書かれていましたが、こういう広がり方は、ご本人も想像されていなかったでしょうね。

