「90年代終わり頃から出回った軍装品は、北朝鮮国内で窃盗や横流しによって不正に持ち出されたものだとよく聞きました。中国へ輸出される一般的な海産物に紛れ込ませて密輸されたため、強烈な海産物の匂いが付着しているものもあった」
さらに異様なのは、国家の最高位である「金日成勲章」や「共和国英雄」といった高位の勲章すらもが流通していたことだ。当時、中朝国境にある骨董市に行けば、黒いビニール袋に北朝鮮の勲章が何十個単位で無造作に詰め込まれ、「鉄クズ」の名目で売られていた。
中には、素材としての価値から純銀が使われている古い勲章を溶かす目的で持ち出したものや、意図的にプレス機で破壊された徽章すら混ざっていた。中には背筋が凍るような品が含まれていることもあった。
「拭き取ってみると、強い土の匂いがするものもありました」(同前)
かつて土葬文化だった北朝鮮は、餓死者が続出した時期に火葬への移行や墓地の整理が進んだとされる。その過程で、土中の遺体と共に埋められていた勲章が掘り起こされ、中国へ流出していたというわけだ。
偽装された博物館
こうした国境の風景は、2020年のコロナ禍による未曾有の「鎖国」で根本から一変した。物理的な往来が完全に遮断されたことで、かつて個人がこっそり行っていた川を往来した密輸や、橋のたもとでの個人的なやり取りといったアナログなルートは姿を消した。
では、パンデミックを越えた現在(2026年)、ブラックマーケットはどうなっているのか。筆者は国境封鎖が緩和され始めた2023年から現在に至るまで、丹東をはじめとする国境地帯を10回以上訪問し、定点観測を続けてきた。
そこで見えてきたのは、かつての個人同士の小規模な取引から、両国の企業や地方政府が絡む「組織的かつ大規模な貿易」へと移行する過渡期の姿だった。
その過渡期を象徴する場所が、2023年に丹東郊外で目撃した「博物館」に偽装された大規模商店である。
たどり着いたのはひょんなことがきっかけだった。23年当時、少ないながらも復活していた観光需要を見込んでか、当時の丹東には「まだ再開されていないはずの遊覧船に乗って北朝鮮に近づく」非公式なツアーが幾つか行われていた。そのうちの一つのツアーにたまたま申し込んだところ、この「偽装商店」に行き着いたのである。



