バスが立ち寄った、道路の脇に建てられた立派な朝鮮風建築の建物に入ると、中は朝鮮族の生活に焦点を当てた簡単な博物館のような作りになっている。しかし、展示の奥には広大な空間が広がり、金製品、高級酒、菓子類といった北朝鮮製の「民生品」が整然と陳列されていたのだ。

博物館にある偽装商店には北朝鮮産という触れ込みで金製品が販売されている

 博物館の展示には目もくれず、さっさと館内を駆け抜けていく中国人観光客たちの目当ては、間違いなくこの巨大な物販スペースだった。

同じく偽装商店には、北朝鮮の国営航空会社「高麗航空」が手がけるジュースも

 この博物館がいつまで残っていたかは分からないが、24年の冬頃には既に建物はもぬけの殻になっていた。23年当時、未だに北朝鮮が厳しく国境を閉じ、丹東市街地にあった昔からの土産物屋に北朝鮮製品が来ていなかったあの時代に、このような場所があったのだ。

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国家主導の巨大ビジネス

 では現在中朝で行われている貿易はどうなっているのか。コロナ禍以降から北朝鮮と貿易を始めたという中国人実業家は、その実態を赤裸々に明かす。

「国境が再び動き始めた頃、北朝鮮の大使館関係者から『大量の太陽光パネルとEV(電気自動車)関係の設備を回してほしい』と直接コンタクトがありました。国家の看板を背負ったエージェントが、インフラ設備を直接買い付けに来るようになったのです」

 また中国にいる北朝鮮人実業家からも話を聞くことが出来た。

「コロナ禍で我々が従来持っていた取引ルートは大きく変わったが、それは中国も同じだ。中国の友好的な業者と相互に関係を築くことで、我々はより最先端のものを調達し、共和国(筆者注:北朝鮮のこと)に貢献している」

 北朝鮮側が今、血眼になって求めているのは、日銭を稼ぐための横流し品ではない。国家のインフラを構築し、産業を動かすための近代設備である。

北朝鮮側で目撃された中国のBYD(これはガソリン車)のタクシー。北朝鮮の軍人の姿も

 現在、中朝国境から北朝鮮を眺めると、青色ナンバーのBYD(比亜迪)製タクシーが走り、ゲート付近には「中国重汽」の最新大型トラックや重機がずらりと並んでいる。これら数百万円から1000万円単位にのぼる最新車両や設備は、一個人の密輸業者が扱える代物ではなく、国連の経済制裁にも抵触する。背後には間違いなく、輸出入を黙認する地方政府や国家企業の存在がある。

北朝鮮の軍人の背後には、中国製の大型トラックが駐め置かれている

 金正恩政権は、3年以上に及んだ国境封鎖を利用して従来のアナログな個人取引を徹底的に摘発・排除し、その莫大な利権を「上納」可能な国家や特権企業へと再分配・集約させたのだろう。