金光や清水の代わりに面談したグループ幹部は、絢を同伴した村上がいきなり激高するのに面食らった。

「あなたたちのせいで俺は逮捕されて、臭い飯を食わされたんだ。俺はすべての調書を読んで、お前たちがどうやって俺を陥れたか知っているぞ」

 娘の面前で、そう大声で罵倒しまくった。彼女は学生時代、母親と一緒に法廷に通い、父の公判の傍聴を欠かさなかった。村上の口惜しさを、そして一家を襲った悲劇をよく知る娘であった。

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「この人だからね、俺を塀の中に突き落としたのは」

 村上は絢の目を見つめながら、幹部を指さしてそう罵った。

 FMHやフジの重役たちは、彼の原動力が私怨と知って恐怖しただろう。

村上世彰氏 ©文藝春秋

 だが、村上のやり方を熟知するものからすれば、相手を怖がらせる意図をもった彼一流の芝居だったようにも見える。

「臭い飯」「塀の中」と言うが、事実ではない。村上は執行猶予付き判決だったので刑務所に収監されてはいないからだ(ただし、拘置所には3週間ほど収容された)。彼なりの誇張と言えよう。そもそも逮捕されたのは、欲をかいてライブドアを誘惑したからである。身から出た錆であって、フジのせいにするのは逆恨みもいいところであった。

 FMHは6月の株主総会を前にして、村上に加えてSBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長(傘下のレオス・キャピタルワークスが5.12%保有)、それに米国系投資ファンドのダルトン・インベストメンツ(同7.51%余を保有)の攻勢に遭っていた。村上はもちろん強敵だが、むしろ独自の役員候補を擁立し、株主総会で雌雄を決しようというダルトン対策が焦眉の急を告げていた。

 北尾という、かつてライブドアの攻勢からフジを擁護してくれたホワイトナイト(白馬の騎士)である恩人を、向こう側に追いやってしまったのは、日枝をはじめフジ歴代経営陣の失策だった。日枝はライブドア騒動後に1回だけ、吉兆で北尾にご馳走したに過ぎない。「僕は孫(正義・ソフトバンク社長。当時)さんと親しいから」と、孫の部下だった北尾を軽く見る。日枝はそうした「格」で人を判断したがるところがある。かくして北尾のプライドを傷つけてしまった。