戦場カメラマンに憧れていた三浦氏
三浦 (バッグから本を取り出して)その『ライカでグッドバイ』は、僕にとっての思い出深い本なんです。実は学生時代、バックパッカーとして世界中を回りながら写真を撮っていて、旅先のネパールでこの本を読みました。僕はもともとカメラマン志望で、一時期、青木さんが『ライカ』で描かれた沢田教一や、一ノ瀬泰造、石川文洋といった戦場カメラマンに憧れていました。彼らがベトナム戦争の戦場で太く短く生きたように、僕も人生を燃焼させる仕事に就きたい、と思っていたんです。
青木 朝日新聞の第一線で活躍する記者が、私に会いたいというので驚いていましたが、カメラマン志望だったと聞いて、合点がいきました。三浦さんの作品は、『南三陸日記』や最新作の『日本で一番美しい県は岩手県である』など、どれも写真が印象的ですから。それではなぜ、カメラマンから新聞記者に転じたんですか?
三浦 実を言うと、就職活動での第1志望は「ナショナルジオグラフィック」のネイチャーカメラマンだったんです。ところが、書類を送ったものの見事に落とされて、記者採用で朝日新聞に入りました。で、入社直後に読んだのが……(ふたたびバッグから本を取り出しながら)ピート・ハミルの『新聞ジャーナリズム』です。報道とは何か、この本から学んだと言っても過言ではありません。
青木 ピートに聞かせてあげたかったな。すごく喜んだと思います。
「動き」を報じるのがジャーナリズムの役割
三浦 原題は『News is a Verb』。つまり、ニュースとは「動詞」を報じることだ、と。取材対象が有名人だとかセレブだとか、固有名詞の大きさに左右されることなく、何をしたのか、何が起こったのか、「動き」を報じるのがジャーナリズムの役割、ということは今も胸に刻んでいます。
青木 この本の中で、すでにニューヨークの不動産王として、メディアに自分の存在を盛んに売り込んでいたドナルド・トランプと、それに群がるメディアをピートは強く批判しているんです。メディアはトランプの誇大妄想に付き合ってはいけない、と。
三浦 まさに「名詞」のジャーナリズムへの警鐘ですね。この本が現地で出版されたのが1998年ですから、恐るべき先見性です。少し引用すると、〈自分を売り込み、功績を膨らませて吹聴し、時には本当の功績にしてしまうことにかけて彼は天才だ。今やトランプ自身が作り上げた架空人格を中心に世界は回っている。(中略)彼らを巡る俗っぽい「物語」は、恐ろしいことに、永遠にさえ続きそうなのである〉とあります。そのうえでピート・ハミルは『ニューヨーク・デイリーニューズ』の編集長時代に〈トランプをあたかもニューヨークのシンボルかのように新聞に取り上げてしまう「有名人病」をなんとか制圧しようと私は努めた〉ことで、実際に『デイリーニューズ』ではトランプ関連の記事は減った。ただ、それは焼け石に水で、結局アメリカのメディアは「有名人病」を克服できずに、トランプ政権を生み出してしまった。まさに“予言の書”です。

