執筆活動を始めて感じた“変化”

 俳優業と並行して執筆活動も継続し、前出の『ミセス』のほか『婦人公論』『Precious』といった雑誌でエッセイを連載してきた。文章を書き始めてからというもの、台本を読んでいても、役の感情を具体的に説明する言葉をつけられるようになったという。

著書『獅子座、A型、丙午。』(中央公論新社)を手に ©文藝春秋

 じつは鈴木は、『東京ラブストーリー』でブレイクする前後の20代前半の時期にもカルチャー誌『月刊カドカワ』で「パンプスはかない」という連載を持ち(1989~91年)、題材に仕事のことは入れないと決めたうえ、子供の頃の思い出だったり、家族や友達との話だったりを、飾らない文章でつづっていた。

 ただ、当時は一方では、俳優が個人として意見を言うと、演じる役との区別がはっきりしなくなるような気がするので、俳優は芝居以外の場で自分の意見を語るべきではないとも公言していた。

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 しかし、その後、小泉今日子や星野源のエッセイを愛読していて、ものを書くという行為が、2人の俳優としての世界観をまったく妨げていないことに感銘を受け、自分にもそれはできるのではないかと思い当たったという(『婦人公論』2017年11月28日号)。

 2021年7月には石橋貴明との離婚を、彼のYouTubeチャンネルで発表した。その少し前には「鈴木保奈美『卒婚』」といったニュースがネットに流れていた。

 当時の対談でこのニュースについて話を振られた鈴木は、《私はそんなこと言ってないし。一体誰が言い始めたのか……》とあきれながら、情報源とされた《その関係者の正体が知りたいですね。名を名乗れ、と。名乗った上で、会いたい。会って話をしたい。それで会ったことをネタにしてエッセイを一本書きたい(笑)》と笑い飛ばしてみせた(『週刊文春』2021年3月4日号)。それも、自分の意見をはっきり表明できるようになったからこその自信の表れだろう。

還暦を前に痛感したことは…

 60歳の誕生日直前には、『Precious』での連載をまとめた新著『中途半端な旅人は語る』(小学館)を上梓した。同書の終わりに収録されたエッセイでは、昨今の中東での紛争が、娘が現在滞在するドバイにもその影響がおよんだことで、初めて「我がこと」として感じられたということがつづられている。

鈴木保奈美『中途半端な旅人は語る』(小学館、2026年)

 #1でとりあげたように「自分から人に関わっていかなくても疎外されずに済むんじゃないか」という期待から10代にして芸能界に飛び込んだ鈴木だが、還暦を前に、人間は否応なしに他人と関係せざるをえないことを痛感するようになった。そんな感情も、きっといまの彼女なら演技のなかで昇華していくに違いない。

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