文春オンライン

連載テレビ健康診断

『この世界の片隅に』ドラマ版の“難しさ”と“致命的な欠陥”――青木るえか「テレビ健康診断」

『この世界の片隅に』(TBS)

2018/09/30
note

 どうして『この世界の片隅に』をテレビで連続ドラマ化しようと思ったんだ。ものすごくハードル高いと思う。

『この世界の〜』の映画のほうはクラウドファンディングで資金を集め、細心の丁寧さでこうの史代のマンガ世界をアニメーション映画に結実させた、業界の良心みたいな映画ではないか。それを実写に。

 あえて実写にするからには「映画を思い出しもしないような別作品」にするしかなかったと思う。静かな炎のような熱いファンが後ろに控えてる映画に「別モノ」をぶつける勇気がなかったんだと思うけど、このテレビ版のあからさまな「中途半端に再現フィルムをつくってみました感」。主演はのん(能年玲奈)が頭にあったんじゃねえかと思えてしまい、実際の主人公のすず役の女優さんは「ジェネリックのん」みたいで、まわりを固めるのが木野花や田口トモロヲときて挙句の果てに尾野真千子。あの映画の雰囲気を再現するのに必死すぎだよ。私はドラマにオノマチが出てくるだけでゲンナリするのだが(だって、一片で料理の味が一変する八角みたいな芸風で、それを自信満々にやってる感じがもうムリ)、今回のオノマチはさえない。他にニンニクだのパクチーだのドクダミだの、薫り高いのがいすぎて相殺されてる。北條家まわりの俳優陣は薫り高すぎる。オノマチが目立たないのはいいが、それはそれでお腹いっぱいだ。

ADVERTISEMENT

主人公・すず役の松本穂香 ©文藝春秋

 その点、浦野家(すずの実家)系は、おばあちゃんや妹といったところの芝居が良くて、この感じでやってくれたらよかったのに……、と思いながらもやっぱりこのドラマは再現フィルムとしては致命的な欠陥がある。

 長すぎた。

 たっぷり時間をとって映画のあの世界を再現しようとしたら、すずさんの妙な言動や会話の間といった、映画の中でほっと気の抜ける笑いどころ、そういうのをコッテリやっちゃって、すごくくどい。さらに、話の進み方ものた〜〜っとしてしまった。連続ドラマで丁寧に再現しようとしたら、二時間の映画で気にならなかったところが欠点として拡大されてしまった。

 NHKの地域発ドラマじゃないんだから、ここはホント、すずをアイドルにでもやらせて「民放ならではの原作破壊実写化ドラマ」に突き進んで炎上するぐらいのほうがちがうものが見えたのでは。高すぎるハードルはくぐりぬける作戦で、ということで。

『この世界の片隅に』
TBS 日 21:00〜21:54
http://www.tbs.co.jp/konoseka_tbs/

『この世界の片隅に』ドラマ版の“難しさ”と“致命的な欠陥”――青木るえか「テレビ健康診断」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー