夏ドラを締めくくるなら、金曜深夜『dele(ディーリー)』で決まりなんだけどね。

 なにしろ山田孝之と菅田(すだ)将暉という二人がバディを組むんだから。懸念があるとしたら、作品の完成度が高く、フッと息を抜けないことか。

 なのに夏ドラで何が一番楽しめたかといえば、『高嶺の花』だから、私も悪趣味だ。

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 設定からして、超アナクロの極みだ。石原さとみ演じる華道・月島流の後継者ももが、ふと出会った下町のしょぼい自転車屋の親父(峯田和伸)の純情に心惹かれる。

石原さとみ ©文藝春秋

 月島流は、名誉と欲とカネ、芸術性への執着でドロドロの汚濁にまみれた世界だ。

 華道と流派のためなら、どんなゲスい非情な仕打ちも厭わぬ家元(小日向文世)。自分の娘なな(芳根京子)を何としても次期家元にしたい後妻(戸田菜穂)は、ペライ前衛華道家(千葉雄大)に抱かれて性に溺れていく。若い千葉君との濡れ場での戸田菜穂が超絶エロかった。

 芸術と愛のどちらに生きるかで悩むももは、泣いたり笑ったり、熊のぬいぐるみのような顔したぷーさん(峯田)を翻弄する。でも「芸術のため」とか言ってぷーさんとの結婚式で、元カレ(三浦貴大)に略奪させるなんて、パロディにもならない。五十年センスがズレている。

 ぷーさんは難かしい本を図書館でよく借りる。同じ哲学書に手を伸ばした地味で清楚な眼鏡の看護師、千秋(香里奈)もぷーさんに好感を抱く。どうなるぷーさん。

 翌週の冒頭でびっくり。ももの豪華なマンション。「なんで進展ないの?」と、ももが訊くと、セクシーな寝起き姿の千秋が「ハア? 赤の他人が偶然出会って、親しくなってる過程でしょ」。一拍おいて「イタリアじゃねえんだから、男と女がそんなアモーレにチャッチャなりますか」

 爆笑したよ。ももの中高からの唯一の親友で超一流の脳外科医が千秋だ。ももが未練たらたらのチャリンコ屋って、どんな男? ハニー・トラップ役を受けたのだ。

 ぷーさんの感想は? ももに訊かれて千秋は「おもしろいねえ。ハンナ・アレント読む、熊のヌイグルミ……惚れちゃいそう」。このとき石原さとみの顔に哀切で昏い表情が走り、マジ綺麗です。

 大時代な設定を使い、名門のお嬢様の不安定な心理にあわせ、ジェットコースターのように展開するドラマ。“伏線の回収”に一喜一憂する時代に、こんな思いつきだけのドラマって新鮮だよ。

『高嶺の花』
日本テレビ系 水 22:00〜23:00
https://www.ntv.co.jp/takanenohana/