石原さとみは『アンナチュラル』で、その容姿と個性に見合った役に、ついに遭遇することができた。
不自然死究明研究所。略してUDIラボの法医解剖医である三澄ミコトを、石原は演じる。不自然死の可能性がある“ご遺体”がUDIには、次つぎと運ばれる。
ミコトや臨床検査技師の東海林夕子(市川実日子)は、警察がスルーした些細な鑑定ミスも見逃さない。集団練炭自殺で死んだ四人の検死が他の仕事で手一杯だからと警察からUDIに回ってきた。自殺で一件落着にしたい刑事(大倉孝二)だが、ミコトはきっちり解剖する。
遺体を徹底して調べあげていくミコトの表情が超クールだ。無駄口を叩かず仕事に集中する石原さとみの顔は凜々しい。私(たち)は、彼女のそんな姿が観たかったのだ。
なんとか事件にしたくない刑事を相手に、遺体からついに科学的データを得て、一人の少女の死因を「凍死です」と告げる口調に、説得力がある。一酸化炭素による中毒死と凍死、どちらもご遺体の肌はサーモンピンクになる。
ただシリアスなだけのドラマじゃない。ミコトと夕子のお喋りが弾むときの心地良さは、ナチュラル感があふれている。なぜご遺体がUDIにばかりくるのか。「科捜研は順番待ち」。「沢口靖子は忙しいの」に思わず笑った。
一家心中、一家心中と考えなしに口にする刑事に「あのー、それやめてくれません」とミコト。「殺人と、それに伴う身勝手な自殺」。海外では、そう認識されている。かすかな苛立ちが伝わる。そう、彼女は“一家無理心中”で奇跡的に生き残った娘だ。
タフな仕事をきっちりこなし、同僚との会話も楽しむ。しかしときおり少女期に体験した凄惨な事件の記憶が、一瞬だがその顔に昏(くら)く走る。
それを振り払うように、解剖の後には腹いっぱい(もちろん肉だって)食べる姿は、泣けるほど美しい。
セクシーな唇とコメディ路線だけが石原さとみの売りじゃないんだよ。自然な笑顔とクールな集中力。それにくわえて、臨死を体験し、いままた死と日常的に接する仕事を選んだ人間のタフな心も表現できるのが石原さとみだ。
石原を主役に選んだ制作陣と、脚本の野木亜紀子のセンスが冴える。ガッキーが『逃げ恥』で演技力を認められたように、石原もこのドラマで生と死と笑いも表現できる女優としての資質を証明した。
▼『アンナチュラル』
TBS 金 22:00〜22:54
http://www.tbs.co.jp/unnatural2018/