『バグダッド・メッシ 片足のサッカー少年』

 今月の1本目は、先月と同じくイラク映画だ。今度の舞台は戦争下にあった2009年のバグダッド。ハムディ少年はメッシに憧れてサッカーをしていたが、戦闘に巻き込まれて片足を失ってしまう。この設定や宣伝の雰囲気からすると、少年がいかにしてハンディキャップを克服するかを追った、美談的な物語になるだろうと想像したくなる。

 だが、実際はその正反対だった。懸命に生きようとあがけばあがくほど、状況は悪くなっていくのだ。

『バグダッド・メッシ 片足のサッカー少年』

 父親が米軍の通訳をしていたことで家を焼かれ、辺境の村へ移住。そこで待ち受けていたのは、過酷な貧困と差別だった。ハムディがサッカーチームに入れてもらえたのは、テレビがあったから。それで村の子どもたちにメッシの試合を観せることだけが、彼らの楽しみだった。

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 そのテレビが故障し、直す金もなくなったことで、ハムディは完全にのけ者にされる。そして、修理代を得るためにサッカー少年たちを誘って向かったのは地雷原。そこで命を落とした兵たちは放置されたままで、所持していた武器も転がっている。それを転売しようというのだ。だがそれは、さらなる地獄の入り口でしかなかった――。

 美談に思えるような一切の甘さはなく、あまりに厳しい現実ばかりがひたすら突きつけられる。希望となるのは、たった一つのオンボロのテレビ。だが、それを直すためには命を賭けるしかない。顕在する宗派間の対立、米軍やその協力者への反感――といったマクロ的な軸と、人間の持つ根源的な差別意識。その両面から少年は苛まれ続ける。

 そのあまりに理不尽で残酷な展開からは、イラクの置かれた状況に対する作り手側の激しい怒りと嘆きが伝わってきた。それでもなお、テレビの中で躍動するメッシの姿だけは、現実の辛さを忘れさせてくれる希望であり続けた。そう考えると、拝金主義にまみれ過ぎた今回のワールドカップと、その渦中にメッシとアルゼンチン代表がいたことに、絶望感を覚えずにはいられない。

『バグダッド・メッシ 片足のサッカー少年』
監督:サヒム・オマール・カリファ/出演:アフマド・モハメド・アブドラ、ザフラー・ガンドゥール、アセール・アデル/2023年/イラク・ベルギー・オランダ/84分/配給:Elles Films/© A Team Productions | Column Film | 10.80 Films | Macgyver All Rights Reserved./公開中