印象的だった「2つの作品」
ちなみに、筆者が初めて中島を認識したのは、映画『愛がなんだ』(今泉力哉監督、2019年)だったと思う。角田光代による同名小説の映画化で、生々しい恋愛模様が多くの観客に刺さり、口コミから波及して上映規模を拡大させた、異例のヒット作だ。
主人公のテルコ(岸井ゆきの)は、マモル(成田凌)に一方的な恋心を募らせているが、マモルには別に思いを寄せる女性がいた。やがて2人の曖昧な関係には終止符が打たれ、友人となったテルコのために、ある日の飲み会でマモルが呼んだのが、中島演じるカンバヤシだ。男友達から紹介されるフリーの男性としてはやたらと格好よくて、10分にも満たない出演シーンをいまだに反芻してしまう。
その次にビビッときたのが、ドラマ『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系/2021年)の桐石航介。主人公が勤める漬物メーカーの営業部エースで、爽やかな笑顔とデータや知見に基づく圧倒的なセールストークで人気を博しているものの、実はめちゃくちゃ打たれ弱い……。中島歩史でいうところの『ふてほど』前夜を彷彿させる、愛すべきクセ強キャラで、当時はカンバヤシを演じた人と同じだということにしばらく気づかなかった。個人的には、中島の底知れぬポテンシャルを最大限に引き出したベストアクト級のハマり役である。
中島歩という俳優が持つ多面的な魅力
中島のすごいところは、このどちらにも嘘がないことだ。初対面から思わず「いいかも」と心が動くカンバヤシも、どんどん情けない素顔がこぼれ出してくる桐石も、対極にある役ながら、不思議なほどしっくりくる。それこそが演技の醍醐味ではあるのだが、中島の場合は器用に“演じ分けている”というより、どちらもが中島本人のなかに存在しているように見えるのだ。
おそらく、彼自身が多面的な人だからだろう。ひとつのイメージに収まりきらない本人の魅力が、そのまま役の幅広さにもつながっているように思う。
だからこそ、人の心の揺らぎや複雑さをそのまま映し出そうとする生方作品とも相性がいいのではないだろうか。『Tシャツが乾くまで』について、生方は放送前から「共感や感動を目指した物語ではないので、人間観察の感覚でお楽しみください」とコメントしており、まさに既存の言葉には当てはまらない関係性を描こうとしている。

