ある種の虐待体験をサバイブしてきた人たちの絶望と悲しさ
東畑 僕はもうちょっと優しく考えている気がしますね。臨床をしていると、自己コントロールが異常に強くて、勝ちに居着く人たちと出会います。例えばベンチャー企業の社長みたいな人をイメージしましょう。
ストイックに、強靭な精神力ですべてをコントロールして、いかに黒字を生み出していくかというところで戦ってきている。そういう人たちがなぜ途中で苦しくなってしまって体が悲鳴をあげるようになるかというと、ある種の虐待体験みたいなものがあって、一人で生き延びてきたという過去があるからだと思うんです。本当だったら親が助けてくれたり、誰かが味方になってくれたり、他者からケアが提供されることで支えられるところで、彼らはそうしてもらえなかった。きわめて過酷な状況です。だから、普通なら、そこでダウンして病気になったり、機能不全になってしまう。
でも、能力が高いと、これを一人で乗り切っちゃう人がいるんですよね。北極を一人で横断するようなものです。この過酷な環境を極限のコントロール技術でなんとかサバイブしたときに、「誰も助けてくれないだろう」っていうのが心にあるから、コントロールのスタイルを手放したら、誰も助けてくれず、滅びてしまうという感覚になるわけです。内田さんがさっき言っていた性悪説ですよね。勝ちに居着くのは、他者を怖がっていて、他者に絶望しているからですね。今までのスタイルから外れるとやられると思っている。それって悲しいことだと思うんです。
内田 悲しいですね。自分自身に釘付けになって、定型から出られないんですから。でも、生命の本質って変化ですから、それでは生きていることにならない。人間は加齢もするし、病気にもなる。人を愛したり、愛されたり、憎んだり、憎まれたり、裏切ったり、裏切られたり、いろんなことがあるわけですから、人間変わるに決まっているんですよね。
東畑 そうしたリスクを全部遮断するようになっちゃうんです。人間的なことが全部起こらないようにガチガチにマネジメントされている。だから、すっごく孤独なんですよね。誰とも心がきちんと触れ合っていない状況で勝ち続けている。常にコントロールし続けている。
こういう人たちが、あるとき寝ることができなくなったり、何らかの症状が出たりしてから、ようやく心理療法にやってくる。あるいは結婚生活で破綻が起きるとか、何らかの不幸がふりかかることで、ようやく変化が起こるわけです。でも、その変化は極めて痛ましい形でやってくる。
成熟した大人の心構えとは? ここからますますお二人の対談は盛り上がります。
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