第168回直木賞を受賞し、今秋映画化される『男ともだち』や『神様の暇つぶし』など数々の話題作を手掛ける千早茜さんの最新刊は、餅とチョコレートへの溢れる愛を綴ったエッセイ『しろとくろの偏愛』。保育園のアルバムの好物欄にも「いも、もち」と書くほど筋金入り餅好きの著者が「理想」とうっとりした安倍川餅とは。本書から抜粋した「川の流れのような」をお届けします。
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川の流れのような
丸くても四角くてもいい。白い餅があったら、さあ、どうやって食べるだろうか。
白餅の食べ方の二大巨頭は安倍川餅と磯辺餅ではないかと思う。もちろん、異論は認める。餅好きの友人は白餅は素のまま食べたいと言い張るし、からみ餅や納豆餅が好物の人もいるだろう。雑煮一択という人もいれば、汁粉やぜんざいがいいという人もいる。
けれど、甘味処に入った時、私は安倍川餅と磯辺餅で大いに悩む。甘い餅としょっぱい餅。ああ、どっちもいい。甘い餅を食べれば、しょっぱい餅も食べたくなるだろう。しょっぱい餅を食べれば、甘い餅も食べたくなるに違いない。ならば、両方頼んで交互に食べよう。甘い、しょっぱい、甘い、しょっぱい……エンドレスの幸福。そうして、私の前にてろりと餅が横たわった皿が二つ置かれることになる。不思議なもので、同じ「甘い、しょっぱい」でも汁粉またはぜんざいと雑煮を頼むことはない。
磯辺餅は醤油と焦げめのついた餅が黒々とした海苔で巻かれている。どこの店も大差はない。対して、安倍川餅はかかっているきな粉が緑色だったりする時がある。青大豆のきな粉だ。最近では、山形の酒田、島根の松江で出会った。こし餡をからめた餅がついていることもある。店や地域によって違う。とはいえ、厳密には安倍川餅は静岡の名物らしい。
一番好きな磯辺餅は、自分で作るものだ。餅の焼き具合も気分で変えられて、醤油も海苔もお気に入りのものを使える。私はみりんを入れた醤油に餅をからめて、もう一度焼く。部屋中に焦げた醤油の香りがひろがって幸せな気分になる。しかし、安倍川餅はほとんど家では作らない。余ったきな粉を持て余すからだ。長らく「これだ!」という理想の安倍川餅がなかった。
