土地の所有者になりすまして巨額の代金をだまし取る「地面師」。2017年に起きた「積水ハウス地面師詐欺事件」では、真の所有者から何度も警告の「内容証明」が届き、本人確認では素人同然の“役者”が干支を言い間違える致命的ミスまで犯していた。
いくつもの違和感やブレーキの機会がありながら、なぜ約55億円もの巨額詐欺被害は防げなかったのか――。ジャーナリストの河合桃子氏の新刊『地面師連絡役カトウ: 積水ハウス55億円詐欺事件、ある実行犯の告白』(小学館)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目)
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「事実は小説より奇なり」な詐欺事件
地主不在の内覧会だったとはいえ、現地が確認できたことで積水ハウス側は信頼したのか、それとも何かに焦っていたのか、「残金を支払う予定を7月31日から6月1日に前倒しする」判断を下す。
ただ、このタイミングで取引にブレーキがかかってもおかしくない動きがあったことには触れておきたい。
5月22日、積水ハウス社内では会議が行われていた。同社宛に5月10日以降“真の所有者”を名乗る者から3通もの「内容証明」が送られてきたことについての会議だ。内容証明については前出の「総括検証報告書」などにこうあった。
1通目は5月10日に大阪本社に届いた。カトウらが印鑑登録を勝手に変更し、印鑑登録証明書を発行したことへのクレームで、仮登記に用いられた印鑑は真の所有者の実印ではないことや、売買契約を締結していないことが書かれていた。
所有者である海老澤氏は長期入院中で4月24日の売買契約に立ち会えない状況にあったことなどについても書かれていた。そして「本件不動産に設定した仮登記の抹消を求める」と記されていた。
2通目は翌11日に同じく大阪本社に、そして積水ハウスの司法書士のもとにも3通目が「御通知書」と題して「仮登記を抹消せよ」と強めの文面の警告文として届いた。
