土地所有者になりすまして巨額の代金をだまし取る「地面師」。55億円もの被害を出した「積水ハウス地面師詐欺事件」の決行当日、取引現場にはまさかの「警察官」が駆けつけ、車内には「警察に吸い込まれる(逮捕される)」という激しい緊張が走っていた。
絶体絶命の局面で、地面師グループはいかにして警察の動きをかわし、巨額の小切手を手にすることができたのか――。
ジャーナリストの河合桃子氏の新刊『地面師連絡役カトウ: 積水ハウス55億円詐欺事件、ある実行犯の告白』(小学館)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目)
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司法書士も見逃した「不審な点」
司法書士によって偽造パスポートはブラックライトで照らされ、「表記のひとつに他の箇所とわずかに異なる箇所がある」と指摘されながらも、打ち合わせは続行。
表記はともかくカトウでさえ気づいた顔写真の透かしが真正のものと明らかに違う不審な点が、司法書士に咎められることはなかった。
さらにこの日、長谷川は本登記に必要な権利証を持参しなかった。内縁の夫であるマエノこと宮田と喧嘩状態にあり、自宅マンションに取りに行くのを避けたい、という理由からだ。億単位の金が動く大事な契約にそんな言い訳が通用することも驚きである。
しかしその主張が通り、権利証はなしで弁護士作成の本人確認情報で本登記を行うことになった。積水ハウス作成の総括検証報告書にも、これらの決定は積水ハウス社内に共有されることなく、この場だけの判断で行われたというような記載がある。
「うまくいくはずがない」と考えていたカトウの感覚は、ある意味で間違ってはいなかった。積水ハウス側が詐欺に気づくきっかけはいくつもあったのだ。それらが見過ごされて契約に至ったという点だけが、カトウにとって思ってもみないことだった。
