告げられた降板、村上の反応は……?

「村上を代える。8回裏から石井」

 岡田からの継投の指示が告げられた。

「“どっちとも言える感じかな”と思いましたね。すごく難しい判断だったと思います。当然、岡田監督もそのままいかせたいっていう気持ちもあったと思います」

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 電話を受けた側の久保田は、状況を思い返しながら岡田の胸中を推察した。

「村上にとってシーズン最初の先発でしたし、2年前に1軍で打たれているイメージもあっただろうし。あの試合の時の村上は、まだ評価されている状態でもありませんでしたからね。立場……立場なんですよね、やっぱり。村上がそれまでローテの一角として回っていたら、絶対に投げさせていたと思います」

 そんなやり取りを知らない村上は、1番打者から始まった7回裏も難なく3人で退けた。マウンドを駆け降りると、ベンチに戻って疲労を感じさせない爽やかな笑顔を見せていた。

この年、10勝をあげた村上は新人王とともにMVPを獲得した ©文藝春秋

 すると、歩み寄ってきた安藤から声をかけられた。

「お疲れ様。代わるわ」

「分かりました」

 短いやり取りだった。

 先発投手によっては、試合中にベンチで投手コーチから状態など確認されることもある。その上で、「まだ投げるか? 降りるか?」と直接相談されることや、本人に委ねられることも珍しくない。84球しか投げていなかった村上は、体力的にもメンタル的にもまだ余裕があった。

 ただ、久保田が言ったように、プロ入りからの実績やチーム内での立場を考えれば、岡田の決断は至極順当だった。

 村上はそう受け止めた。受け止めるしかなかった。

「(捕手の坂本)誠志郎さんは、薄々感じていたみたいで。“これ、代わるかもしれないぞ”みたいに言っていたんですよね。僕もやっぱりそこは岡田さんが“自分の勝ちを優先してくれたのかな”っていうのは感じたので。その後に投げる(石井)大智さんにはホント申し訳なかったですけど……」

 NPB史上初の大偉業は、こうして幻に終わった。