「あれっ、また、井之頭五郎?」

 そう思ってチャンネルを変えても、ほどなくまた「井之頭五郎」がひょっこり。

作中で井之頭五郎を演じる松重豊さん ©文藝春秋

 9月の韓国の旧盆の連休中、なんとケーブルテレビ3社が『孤独のグルメ』(テレビ東京系)をシリーズ別に放映していた。

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 日本でも人気の『孤独のグルメ』。個人で輸入雑貨商を営む主人公、井之頭五郎が、仕事に行った先々の街で自分の勘を頼りに店に入り、ひたすら食事を楽しむドラマだ。そんな『孤独のグルメ』が、作画の谷口ジローさんが亡くなったときも韓国の新聞に追悼記事が掲載されるほど、韓国で人気を博している。

「放送したはじめの頃は日本通のマニア層に人気がありましが、今年、シーズン7で韓国編が放映された後、人気の裾野が広がりました」(ケーブルテレビ・チャンネルJ、キム・ミンジョン本部長)。チャンネルJは2006年に開局した日本番組専門のケーブルテレビの老舗。韓国で『孤独のグルメ』を最初に放映したのもここで、日本の放映(2012年1月)からまもなくのことだった。

 放送を見た韓国人の知り合い(30代、会社員)が、「面白いドラマを発見しましたよ。今度、日本に行ったら、五郎さんが行った店に行こうと思っているんです」と教えてくれた。まだ、『孤独のグルメ』が今のような人気も認知度もなかった頃で、まるで時代を先取りしているような口ぶりだった。

「ひとりでごはん食べるの? 韓国ではやめたほうがいいよ」

 韓国での『孤独のグルメ』人気は、ここ数年で現れた「ひとりごはん(ホンパブ)」の流れからきているのだろう、などと勝手に思っていた。「ひとりごはん(ホンパブ)」とわざわざネーミングするほど、かつての韓国ではひとりで食事をすることはどこかタブーに近かった。

 韓国の食堂では、サービスで箸休めがわんさか並ぶ ©iStock.com

 2000年代初め、友人から、「ひとりでごはん食べるの? 韓国ではやめたほうがいいよ。ひとりでごはんを食べている人は友だちがいないとか、なんか“事情”がある人だと思われて不気味がられるから」と忠告されたこともある。

 食事はワイワイと大勢で、が韓国のマナー。しかし、時代は流れ、さらに忙しさを増した現代社会、他人と時間を合わせることはなかなか難しい。韓国でも若い世代の一人暮らしが格段に増えた。そんな背景もあってか、コンビニに置かれる弁当の棚はあれよあれよと増え、韓国のファストフード「キムパプ(韓国風海苔巻き)屋」もおしゃれな店構えに姿をかえて、そこでひとりでささっと食事を済ませる人の姿も普通になった。