「韓国のグルメ番組はタレントが『おいしいー』って言うだけ」
そんな時代の移り変わりもあって『孤独のグルメ』に火がついたのかと思っていたのだが。
「ひとりごはんが認知されてきたというよりは、複雑な現代社会のなかで、ゆったりと鑑賞できるドラマというところが特に若い世代の視聴者から人気があるようです。また、このドラマの魅力はなんといっても食事をしながらのコメントで、本当に面白くて秀逸。それに、五郎さんの食事をするときに使う顎の筋肉の動きも絶妙で、そんなところにもファンがついています」(前出・キム本部長)
今年8月から遡ってシーズン1を放映し始めたのは、女性専門娯楽ケーブルテレビの「TRENDY」で、同社の担当者も、「『孤独のグルメ』が放映された頃から韓国でもちょうどグルメに関心が持たれるようになって、日本のドラマ『深夜食堂』も人気がありました。『孤独のグルメ』の面白さは五郎さんがつぶやく独り言。これが韓国人にとってはとても新鮮でした。表現も豊かで独特で面白い。だから、何度みても面白いんです。シーズン1を放送したいと思ったのもそんなところからです」と言う。
実際にドラマのファンにも訊いてみると、「ただ、ごはんを食べているだけなのに、見ていると引き込まれる。ネットとかのグルメ情報に頼らずに、自分の“勘”で店に入って、それはうまそうに食べるでしょ。韓国のグルメ番組はタレントがでてきて、おんなじ表情で、『おいしいー』って言うだけ。うんざりします。それが井之頭五郎のコメントは、そんな風に食べ物を表現をするのかと思わず唸ってしまうようなものが次から次へと飛び出す。ごはんを食べながらこんな楽しみ方もあったのかとファンになりました」(会社員40代、男性)というコメントが。
「完全に癒やし。ごはんを食べる、そんなささやかなことを楽しんでいる五郎さんを見ていると癒やされます」(会社員30代、女性)という人もいた。
「韓国編」放送で人気がさらに上昇
『孤独のグルメ』の人気をさらに押し上げたのは、今年、放映された韓国編だ。
韓国の伝統工芸品のリサーチのために主人公の井之頭五郎が韓国を訪ねるという設定で、韓国の”台所”といわれる全州でビビンパプやチョングクチャン(納豆汁のような汁物)、ソウル市内では味付きの豚カルビを堪能した。
この様子は韓国で大きくとりあげられ、井之頭五郎を演じる俳優、松重豊さんの「空腹で撮影にのぞむ」と語ったインタビューも新聞に掲載されてドラマをぐっと身近に感じたようだ。
ただ、違和感を覚えた人も。『孤独のグルメ』に登場するのは、どの店も味はいいが、ありのままの店構えを保ち、きらびやかでないが地元の知る人ぞ知る“名店”だ。大衆文化評論家のイム・ボム氏は、そんなコンセプトが分かっていても、実際に韓国の店が登場すると「ソウルや全州の裏通りがみすぼらしく見えて(もっときれいな通りを撮影すればよかったのに)」(ハンギョレ新聞7月2日)と戸惑ったと言い、次のように続けた。
「撮影するとき、ソウルの食堂のおばさんがきれいに着飾ってでてきたので、いつものようにやってくださいとお願いしたそうだ。そうか、と思った。にぎやかでない、裏通りの一角に昔の雰囲気のまま残っている店をそのまま撮影すると、それがチョングクチャンの店でも、豚カルビの店でもこういう風に映るんだなあと。日本の裏通りや店は異国的だから、みすぼらしさや野暮ったさをそれほど感じなかったのだ」(同)