17世紀オランダの画家ヨハネス・フェルメールが描いた本作は、21世紀の日本でもっとも人気のある西洋絵画の一つです。これは特定の人物を描いた肖像画ではなく、表情や衣装などを研究するために描かれた、トローニーと呼ばれる人物画の一種と考えられています。というのも、少女は17世紀のオランダ人が普通は着用しないターバンを身に着けていることから、何らかの役柄に扮したものと推測されているからです。さて、本作の類まれな魅力は一体どのように形作られたのでしょうか。それは、フェルメールの徹底した引き算の美学から生まれているということを詳しく見ていきましょう。
まず、使用する色の数が少なく抑えてあるので、少女の表情と青いターバンの色が引き立っている点が挙げられます。実はこの絵、なんと10種類の絵具だけで描かれています。特に、フェルメールといえば鮮やかな青色が有名で、それはウルトラマリンという大変に高価な絵の具だからこそ出せた色でした。その青を、色数を最小限に抑えた中で、補色である黄色によって際立たせているのです。このような引き算の色使いが絵のインパクトを強めているのは間違いありません。
そして、ミニマルな構成も絵の魅力をぎゅっと凝縮することに貢献しています。黒っぽい背景に明るい顔を配することで、強いコントラストが生まれ、鑑賞者の目を一瞬で捉えるのです。しかも、全ての形状はすっきりした輪郭を持ち、陰影の塗り分け方もかなり簡潔なので、余計なノイズが省かれています。
ヨハネス・フェルメール「真珠の耳飾りの少女」 1665年頃 油彩・カンヴァス マウリッツハイス美術館蔵
最後に、フェルメールの仕上げぶりが「輝く一瞬」を表現していることも見逃してはいけないでしょう。本作は緻密でリアルに見えますが、よく見ると筆遣いが意外に大振りでいきいきとしています。しかも、少しピンボケした写真のような光の表現が輪郭を和らげ、少女の表情・真珠の輝き・青いターバンの色の魅力を引き出しています。少女の顔の輪郭部分では、黒い背景と接する部分で淡く透ける筆致が重ねられ、ぼやっとした印象が生まれています。また、フェルメールのシグニチャーともいえる光の粒がターバンや上着に点々と置かれていることもキラキラとめくるめく視覚効果を作り出しています。
もし本作が、カラフルで背景にもいろいろと描き込みがあり、塗り跡が全く見えない滑らかな仕上げで、硬くクリアなエッジを持っていたとしたら。きっと、こんなにも生身の人物の瞬間を捉えたような感動を伝えることはなかったでしょう。フェルメールの抑制の利いた表現と、細部にわたって張り巡らされた筆のコントロールが、少女がこちらに振り返ったそのかけがえのない一瞬を画面に留めているのです。
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「フェルメール 真珠の耳飾りの少女展」
大阪中之島美術館にて9月27日まで
https://vermeer2026.exhibit.jp/



