ジョージア・オキーフ(1887-1986)は20世紀アメリカを代表する画家。彼女は画業のみならず、夫で写真家のA・スティーグリッツの被写体として、またニューメキシコに造った日干しレンガ(アドビ)の家での生活といったライフスタイルも含めて有名になりました。
本作は紅葉した1枚の葉っぱを、キャンバスからはみ出さんばかりに大きく描いています。あなたはどんなことを感じたでしょうか?
まず、構図について考えてみましょう。子供のころ、「画用紙に大きく描きましょう」と言われたことはないでしょうか。対象を大きく描き、余白を切り詰めることで、視線が画面の枠の外に逃げ出しにくくなることから推奨されています。オキーフのとった手法もまさにそれで、私たちは否応なくこの大きな葉と向き合うことになります。
さらに、葉の先端や軸の部分を少しトリムしたフレーミングのため、鑑賞者はその欠けている部分を自然と補足し、実際の画面よりも大きな画像を思い描くことになります。また、背景には葉の残像にも影にも見える隈取が幾重にも取り囲み、葉が揺れているようにも膨張するようにも見えてきます。
この絵はオキーフが20年代に描いた葉を主題にした一連の作品の1つ。葉を極端に大きく捉え、細部を強調したり省略したりすることで、具象画にも抽象画にもとれる不思議な揺らぎを感じさせるところが魅力です。また鮮やかな色使いと曲線が官能性を放ち、強い象徴性も感じさせます。
オキーフの絵について、性的なメタファーとして読み解く風潮が根強くあります。例えば、彼女は花を大きく描いたシリーズで名を馳せるのですが、それが女性性を暗示していると多くの人に受け取られました。当時フロイトの精神分析がブームだったこともありますが、等身大に描かれていることも擬人化して捉えたくなる要因かもしれません。
しかし、オキーフはそのような性的な解釈に強い反感を示していました。彼女は、大きく描いた理由について「見る人は驚いて時間をかけてよく見ようとするだろう。私が花に見るものを、忙しいニューヨーカーでも時間をかけて見るようにしてみせよう」(『ジョージア・オキーフ』 ブリッタ・ベンケ著 タッシェン・ジャパン刊)と述べています。また、彼女の周辺の夫を含めた写真家たちが身近なものをクロースアップで撮ることで異化作用を起こす表現を試みていたことからも影響を受けたと考えられます。では、オキーフがこの紅葉した葉に見たものはなんだったのでしょう。
この絵を描いた1927年にオキーフは二度も胸の手術を受けています。そして絵を描いた後のことですが、オキーフは夫の親族との付き合いに疲れて1人で夏を過ごすようになり、そうすると今度は夫の女性問題が露呈します。その上、仕事で成功しつつも大きなプロジェクトがとん挫するなど、20年代末から30年代にかけて苦しいことが続きます。この燃えるように身を捩る赤い葉は、そのような人生の浮沈を予感していたかのように感じられてきます。
INFORMATION
「石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 読書する女性たち」
アーティゾン美術館にて11月19日まで
https://www.artizon.museum/exhibition/detail/560