また、マイケルは世界的なパントマイマー、マルセル・マルソーにも夢中になった時期があったという。マイケルの没後に、マルソーのアシスタントを長く務めたエレナ・セラは、AFP通信で《マルソーさんのステップのひとつに風に逆らうような歩き方があるが、これがムーンウォークのヒントになったと、ジャクソンさんが舞台裏で話したことがあった》と答えている。

ムーンウォークの源泉は、1920年代からあった!?

パリでも活躍したジョニー・ハジンズ(右)が出演したジャン・ルノワール監督の『チャールストン』(27年)©Mary Evans

 そもそも、バックスライドの動きは、いつからあったのだろう。

「ソウルの帝王」ジェームス・ブラウンが得意にした「キャメルウォーク」という滑る足さばきや、マイケルが敬愛してやまなかった名優フレッド・アステア、エンターテイナーのサミー・デイヴィス・ジュニアらの動きにも、ムーンウォークによく似た動きが見つかる。

ADVERTISEMENT

 さらに遡ってみると、1930年代にキャブ・キャロウェイというアフリカ系アメリカ人のジャズ歌手が、すでによく似た動きを舞台で見せていたという。

 そして1920年代には、同じくアフリカ系アメリカ人のジョニー・ハジンズというヴォードビリアンがいた。「黒いチャーリー・チャップリン」と呼ばれ、ジャズやブルースの音楽(トランペットやサックスの音)に合わせたダンスとパントマイムでステージを沸かせた人物で、彼の動きの中にバックスライドの動きがあったという。

 このあたりが現在確認できる、「ムーンウォーク=バックスライド」の起源だ。

 いずれにせよ、さまざまな人たちが演じてきたパフォーマンスが、マイケルというスーパースターを通じて一般的なものになった、ということだろう。

 マイケル自身も、前出の自伝『ムーンウォーク』でこう語っている。

《この頃までに、このムーンウォークはもう路上のダンサーたちの間では流行りつつあったのですが、僕がやったことで、少しばかりその評価が高まったと思っています》

 マイケルの繰り出すムーンウォークの足下には、長い長い歴史が横たわっていたのである。

次のページ 写真ページはこちら