出会いは1999年、バイト先のカフェで

 1999年の一時期、私は小川真由美の付き人をしていたのだった。

 きっかけは、こうだ。

 当時私は25歳、大学を出て就職もせずアルバイトをしていた。バイト先は渋谷のとあるカフェで、そこは自家製パンが人気だった。ランチタイムはパンを買い求める客で行列が絶えず、私らバイトは注文を聞いて、パンやスコーンを包み、そして会計という流れをひたすらに繰り返す。はい、次の方どうぞと目をやれば、小川真由美が立っている。目が合った瞬間、体が固まった。なんで……大女優がこんなところに? 

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 映画好きの私は、『復讐するは我にあり』も『八つ墓村』もレンタルビデオで見ていた。あのすさまじい演技を残した役者が目の前にいる! 頭が混乱して茫然としてしまう。そして小川さんは私に向かって、よく通る声でひと言「早くしてよ」と不機嫌そうに言ったのだった。

 我に返った私は注文を聞いて包み、会計を伝える。お釣りを返したら行ってしまうんだなと思ったら、「あの」と声が口をついて出てしまう。

「何よ」

「あの……あ、ファンです」

「……あら。はは、そう……。ふふん。じゃあ、また来るわよ」

 冷たい表情から一転、にんまりとほほ笑んで小川さんは去っていった。そして本当に夕方、また突然にやって来たのだった!

「あたしね、ここ数年飼っているペットの世話やらが大変で仕事を受けていなかったのよ。だけどこれはやりたいな、やってもいいなと思える仕事が来たから、付き人やってくれる人を探していてね。それであなた……やってみない? さっき見た瞬間、あなたならできると思ったの。あたし、ひらめいたのよ」

写真はイメージです ©GYRO_PHOTOGRAPHY_イメージマート

 冗談と思われるかもしれないが、まだバイト中の私をつかまえて小川真由美は本当にこう言ったのだった。気が動転してなんだかよく分からなかったが、結局日を改めて会うことになる。