「もう(警察を)呼んでいるから」と関係者が応じた。
「もういいですって」。居住者になりすましていた男は、脱兎のごとく走りだす。
「こらっ。止まれ!」。住民の声を振りきり、男は姿をくらました。
会議室には、もう一人、身元不審の男が残っていた。その男は、「区分所有者の息子」を名乗っていたが、マンションに住んでいる形跡はなかった。修繕委員会が開かれる日に車でマンションに来て、住民用ではなく、来訪者用の駐車場に車を停めていた。
通報を受けた神奈川県警の警察官が会議室のなかに入り、残っていた男に任意同行を求めた。男はすぐには応じず、警察官にとり囲まれてマンションのなかを移動した後、外に出て最寄りの駅に近づいたところで、「住居侵入容疑」の現行犯で逮捕された。
潜入した2人の容疑者の正体
それから17日後の6月3日、逃げた男も捕まった。
マンションでは1年ちかく検討してきた大規模修繕への工程が崩れた。議事は白紙撤回され、振りだしに戻った。
逮捕された男たちは、処分保留で釈放されるが、7月4日、神奈川県警は「詐欺未遂」と「偽計業務妨害」の容疑で捜査を始めた。
潜入した2人の容疑者は、大阪府東大阪市に本社を置く修繕施工会社の営業部員だった。この施工会社は、1997年に創業している。業界に精通した人の話では、同社はマンションの修繕で業容を拡大したが、2020年に粉飾決算にかかわる修正損で大幅な債務超過に陥った。翌21年から体制をあらため、以降は黒字決算で推移しているという。年商は120億円。修繕施工業界では、年商400億円規模の大京穴吹建設、長谷工リフォーム、建装工業など元請け大手には及ばないが、中堅上位にランクされている。
業界内で、「東大阪の施工会社」の名は知れ渡っており、警戒する管理組合団体や一級建築士事務所は少なくない。
管理組合に社員を潜入させ、大規模修繕へ誘導して工事を受注しようともくろむ、その実態とは、どのようなものか。管理組合をどう操ろうとしていたのか。