警察に拘束された男
事件発生から約5日後の7月26日に、保見は郷集落の人里離れた山中で、上半身裸、下着姿でいるところを警察に拘束された。
2015年9月。果たして、事件にはどんな背景は存在したのか、山口県周南市金峰にある郷集落へと向かった。
山口宇部空港から周南市金峰へ、中国自動車道の鹿野インターチェンジで車を下りて一般道を走ると、すぐに道はつづら折りの山道へと入った。道路脇の谷に目をやると、放棄された廃田、崩れてしまった茅葺き屋根の家など、限界集落どころではなく、崩壊した集落の無残な姿が、容赦なく目に飛び込んできた。
30分ほど山間集落の末路とも言うべき姿を目にしながら、走っただろうか、途中1台の車とすれ違っただけで、郷集落へと入った。集落の入り口にあったのが、保見が暮らした家だった。
保見の家は白壁で覆われ、古い日本家屋しかない集落の中では異彩を放っていた。土臭い集落の中に、どことなく都会の匂いを漂わせてすらいた。ただ、その姿は、土着の人々が暮らす集落でひとり浮いていたという保見の姿と重なって見えなくもなかった。未だに家の入り口には、警察によって張られた黄色いテープがそのままになっていて、保見が備え付けた、首の無い女性のトルソーが、家とは反対の道路の方角を向いて立っている。
保見の家の隣りは、殺害された山本さんの家で、更地となっていた。道路標識のポールの根元に花が備えられていたが、年月の経過によって茶色く枯れていた。さらに歩いていくと、貞森さんの家があった場所についた。焼け焦げた材木が今も家のあった場所にそのままになっていた。
そこから保見の家の方角に戻り、更に5分ほど歩いただろうか、川沿いに建つ、石村さんの家に着いた。当然だが人の姿は無い。集落に入ってから、人の姿を見ることはなく、川のせせらぎの音だけが響いてくる。河村さんの家へと向かっていたら、川沿いの畑に初老の男の姿があった。集落に入って、初めて見る人の姿だった。道路端にある幅3メートルほどの狭い畑には、赤い唐辛子が植えられていて、男は唐辛子を収穫しているようだった。
「最近は、イノシシや猿がようけ出てきて、食ってしまうから、まともな野菜は植えておけんのよ。やつらもさすがにこればかりは食わんのじゃ」
