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初恋の相手は子持ちの人妻 ふたりが“最後の一線”を越えたあの日の謎

著者は語る 『牧水の恋』(俵万智 著)

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 歌人の若山牧水が没してから今年で90年。歌人の俵万智さんが、牧水の評伝を上梓した。

『牧水の恋』(俵万智 著)

「牧水の短歌をはじめて読んだのは高校生の頃です。2年生のときに大失恋をしたので『山奥に ひとり獣の死ぬるより さびしからずや 恋の終りは』などの失恋の歌には心から共感しました。ダイレクトに比喩が届く歌です。そして失恋がもとで受験勉強に身が入らず指定校推薦で早稲田大学に入学。はからずも牧水の後輩になりました。大学でも歌人の佐佐木幸綱先生の講義で牧水の短歌を読みました。佐佐木先生による『白鳥は 哀しからずや空の青 海のあをにも 染まずただよふ』の解釈に衝撃を受け、短歌の解釈と鑑賞の面白さに開眼した日のことは今でもよく覚えています」

 酒と旅をこよなく愛した牧水は、大学時代に身を焦がすような初恋を経験していた。想い人の名は小枝子といい、神戸に暮らす人妻で、2人の子供もいた。彼女はその素性を隠して上京し、牧水と深い仲になる。

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 俵さんはこの恋の絶頂から別離までの秀歌を鑑賞し、友人への手紙や研究書を紐解きながら、牧水の若き青春の日々を追った。