襲撃の相手である中井光蔵の息子に書類偽造を手伝わせるとは、どういう神経なのかとも思うが……。驚くべき周到な計画性。ここから実際の犯行に進む。また『捜査實例集』の記述。

偽電報で呼び戻す

 國太郎が第一に狙っている中井光蔵は予備役将校で勤務演習のため召集され、10月18日入営するので、17日の夜行列車で出発する予定になっていた。これを知った國太郎は光蔵の入営前に決行しようと決意。

 光蔵の母ますが倉吉の知人宅へ出かけたのを知っているので、「ホンヒ七ジ二ゼヒカエレヨウケンデキタニシナカヒ」(「本日(午後)7時にぜひ帰れ。用件できた。西中井」)という偽電報を発して、ますを帰宅させた。夜6時ごろ、光蔵、ます宛てに「相談したいことがあるから来てくれるように」という手紙を書いて使いに持たせてやったが、光蔵らは応じなかった。

 國太郎は夕食の際、3合ほどの晩酌をして元気をつけた。そして以前から所持している6連発拳銃と、あらたに買い求めたブローニング式拳銃2丁にそれぞれ実弾を装填した。残りの実弾150発は帯革に入れて腰に巻き付け、ウイスキー2(びん)と現金49円(現在の約8万円)を用意して鳥打帽を被り、地下足袋に足元を固めてすっかり身ごしらえが出来上がった。夜9時ごろ、隣家の光蔵宅へおもむき、案内も請わずに表座敷へツカツカと侵入した。

「すごい笑みを浮かべて悠々と」

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 ついに惨劇の幕が切って落とされた。実は『捜査實例集』と『鳥取県警察史第1巻』(以下『警察史』)、それに翌1927(昭和2)年6月の初公判時に公表された予審決定書(以下「決定書」)では内容がかなり異なる。より記述が生々しい『捜査實例集』を引用。異なる点は『警察史』と「決定書」の記述を併記する。

 光蔵は何気なく開いたふすまの方に振り向いた瞬間、血走った目を見定めた國太郎は「ズドン」と1発発射した。弾丸は光蔵の左腕を貫いた=『警察史』「決定書」は「2発」で「光蔵は胸と左手に重傷」としている。光蔵は仰天して転げ落ちるように中庭に飛び降り、土間を回って表通りへ逃げ出した。「強盗だ! 強盗だ!」。

 ほとんど無意識に叫びつつ、(隣の八橋)警察署へ駆け込んで助けを求めた。光蔵のそばに座っていた妻のぶは、突然起こった拳銃の音と、夫光蔵が撃たれたさまを見て、動転しながらその場から逃げようと立ち上がった。國太郎はすぐ2発目の引き金を引いた。轟然とした響きとともに彼女はばったりそこへ倒れた。腹部からだくだくと血が湧き出ている=翌日死亡(『警察史』「決定書」)。