「殺気だった目を見据えて拳銃を構え…」 

「おまえたちはどうしたのだえ!」。2階からバタバタと下りてきたのは光蔵の母ますだった。國太郎はますに向かって2~3発、続けざまに撃った。「キャッ!」と一声悲鳴をあげてはしご段を転び落ち、よろけながら台所へ逃げ込んだが、そのまま倒れてしまった=胸、背中、腹に重傷(「決定書」)。國太郎はますを追って台所に侵入した。看護婦の戸田みさよは、座敷で起こった数発の銃声に驚きながら座敷の方を見ていると、ますが血にまみれて倒れこんできた。「おやっ」と思ってますの方へ近寄ろうとすると、そこには國太郎が殺気だった目を見据えて拳銃を構えている。

「ワアッ!」と恐怖の叫びをあげてその場を逃げ出そうとした時、火ぶたは既に切られていた。1発! 2発! みさよはばったり倒れた=「手と尻に重傷」(『警察史』「決定書」)。國太郎はすごい笑いを浮かべて悠々と光蔵方を出た=「國太郎はますとのぶを殺害したと思い込んだ」(『警察史』)。ただならぬ物音に町内が何となく騒がしい気配がするが、銃声を恐れてか、誰も近づかない――。

 その場で見ていたような描写だが、「すごい笑いを浮かべて」などは、「誰も近づかない」のだから目撃者がいるはずもなく、筆者が“盛った”ように思える。惨劇は続く。

 獲物を狙うように目を光らせつつ、國太郎は東隣の錦織正之丞宅へつかつかと進み入った。中座敷にいる正之丞を見つけた國太郎は、何も言わずに1発放った。だが、急いでいたうえに手元が狂って弾は正之丞には命中しなかった。正之丞は飛び上がるばかりに驚いてしゃにむに逃げ延びた。

 國太郎は急ぎ足で同家を去って、隣の中井為次郎方へ侵入した。誰が来たのかと思いながら表座敷の障子を開けて顔を出したのは娘まつだった。國太郎はとっさに射撃=「まつが雨戸を開けたところ、路上から射撃」(『警察史』)。まつは下腹部=「腰部」(「決定書」)を撃たれて、その場で即死した。「大変だ」と為次郎と妻まさは中庭に駆け出てきた。國太郎は2人を目がけて2発3発と乱射した。為次郎には命中しなかったが、まさは下あごから左頸部を撃ち抜かれた=「重傷」(『警察史』「決定書」)。2人は悲鳴をあげて逃げ出した。

 國太郎は追いかけたが、ついに見失って、そのまま同家の裏通りの新町に出た。見れば、前方を錦織正之丞が逃げて行く。「おのれ!」と言いながら、追い撃ちに2~3発発射。正之丞は左のひじに擦過傷を負って付近の民家へ逃げ込んだ=「軽傷」(「決定書」)。國太郎は町役場前を悠々と通り、人通りの少ない大経寺前に出て、そこで拳銃の弾丸を詰め替え=「3丁とも弾がなくなったので」(「警察史」)、中井熊太郎方を襲った。その時はちょうど、熊太郎が外出先から帰って表口から入ろうとするところだった。

ADVERTISEMENT

『警察史』は「熊太郎は、國太郎が拳銃を持って光蔵方を襲ったと聞き、光蔵方に駆け付けたが、國太郎は既に去った後で、今度は熊太郎方に行ったのではないかということで慌てて家に引き返した」と書いている。惨劇もようやくクライマックスへ――。