「國太郎は久しく未決拘留生活をしてきたとも思えないように、顔は極めて血色がよく、太り気味の大きい体を机の前に運ぶ。さすがに新聞写真班のカメラに顔をそむけつつ、氏名、職業などを尋問されると『職業にはその他、醤油業があります』とハキハキした口調で答えた」。公訴事実については、準備手続きでの陳述に大筋で違いはないと「死刑を覚悟している國太郎は何ら悪びれることなく犯行を認めた」。

法廷での國太郎(因伯時報)

 その後の審理では、被害者であり親族の中井熊太郎やますらに対する恨みを述べ、裁判長に「邪推ではないか」と問われると「そんなことはない」と反発した。

一部被害者に「別にどうとも感じない」

 午後の審理では、松陽と大朝山陰版の30日付朝刊によれば、國太郎は殺害対象について、自分に悪い評判を立てた中井光蔵と母ます、中井為次郎、中井熊太郎、錦織正之丞の5人の名前を挙げ「やっつけてやろうと思っていた」と明言。被害者のうち戸田みさよら女性2~3人については「気の毒」「かわいそう」と述べたが、ほかの被害者は「別にどうとも感じない」とした。

ADVERTISEMENT

 これに対し、検事は「残酷な犯行で同情の余地がない」として死刑を求刑したが、國太郎は「極めて平気」(松陽見出し)な様子だった。「死を覚悟していた」と記事にはあるが、やりとりを読んでも、それだけの惨劇を実行した人間とは思えない手ごたえのなさが感じられる。

 判決は同年7月11日。無期懲役だった。12日付松陽朝刊の記事は――。

 鬼熊の凶行をまねてピストル3丁に弾丸数十発を準備。恨み重なる親族、知人数人を襲撃してうち2人を殺害し、7人に重傷を負わせた東伯郡八橋町、元郵便局長・中井國太郎にかかる殺人被告事件の判決は11日午後1時45分、鳥取地方裁判所刑事法廷で長尾検事立ち会いのうえ、山崎裁判長から言い渡しがあった。岩美郡稲葉村(現鳥取市)婦人会員が多数傍聴するなど、傍聴席はほとんど満員。

 山崎裁判長が國太郎が取り調べで認めた事実を読み聞かせた後、無期懲役に処すると宣告した。國太郎は死刑を予期していたらしく、裁判長から事実を読み聞かせられている間、落ち着きのない面持ちだったが、無期懲役と聞くと、われを忘れたように腰を決めて二度まで平身低頭し、うれしそうなそぶりを示した。

一審判決は無期だった(因伯時報)

 なぜ死刑から無期に減刑されたのか。記事に説明はない。しかし、國太郎は逮捕後の言葉とは裏腹に、判決に不服と7月15日控訴。検察側も18日に独立控訴(被告側が控訴を取り下げても効力を失わない)を申し立てた。