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ヴェノムとバディ、80sテイストは三位一体

 バディものといえば、80年代の金字塔『リーサル・ウェポン』(87)に代表される凸凹コンビで、ああだこうだと相棒同士で揉めながらも悪に対抗する物語。戦争のトラウマを抱えていたり、妻子を失ったり、生活苦があったりする主人公2人が正義と友情に目覚めて、あっけらかんと悪を皆殺し! みたいな王道は、『ナイスガイズ!』(16)や『アイアンマン3』(13)を手がけた、ミスターバディ・ムービー、シェーン・ブラックが確立した。そんな彼の最新ヒット作『ザ・プレデター』(18)は凄腕スナイパーとダメ兵士たち、プレデターを捕まえたい謎の組織がコメディシーンもばっちり入れつつ、〈とりあえず仲は悪いけど、この宇宙人はヤバイから戦おうぜ!〉と団結して命を粗末に散らしながら反撃をかますという、まさに80年代回帰の傑作だ。

 

タイムリーな作品となった映画『ヴェノム』

 こうしたトレンドの中で映画『ヴェノム』は非常にタイムリーな作品といえる。ストリートでクールに暴れるワルの象徴であったヴェノムはコミック界のギャングスターであり、ヒップホップスターだ。このスターヴィランが大暴れするに相応しいスタイルは、80年代にヒットをかましたバディものに他ならない。ヴェノムとバディ、80sテイストはまさに三位一体のものなのだ。

 製作者の狙い通り、映画本編では21世紀のヒップスターであるエミネムの声が街に響く。スピード感、そして理屈抜きの楽しさいっぱいで観客もクールなワル気分が満喫できる。エディとヴェノムのコンビは、肉体的にも精神的にもくっついたり、離れたりを繰り返しながら「ウィ(俺ら)=バディ」としてサンフランシスコのストリートをルール無視で爆走する。こうしたグルーヴこそ、いまクリエイターとオーディエンスが感じたい現代の〈悪の空気〉なのかもしれない。

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 映画のなかで繰り返し描かれてきたクリエイティブな産物としてのワルには、時代の空気、無意識が映し出されている。現在では『シェーン』(53)の黒づくめのガンマンを演じたジャック・パランスや日本の時代劇での悪侍山形勲やヤクザ映画の遠藤太津朗のような「見るからにワルそう」である正統派のワルは姿を消してしまった。悪はより複雑に多面化し、善悪の明確な線引きがしづらくなった。