スーパーマンも強さゆえに悩みまくる「いま」
評論家の川本三郎は「いま、世界や日本の情勢を見るとフィクションを超えた悪が幅を効かせすぎて、映画の悪にリアリティがもてなくなってます」と本書で語る。確かにゼロ年代以降、金も支配欲も捨て、ただ「世界が燃えるのを楽しむ」タイプである『ダークナイト』(08)のジョーカー、新しくは全宇宙のバランスのために生命を半分に減らすことを目指している『インフィニティ・ウォー』の生真面目な悪玉サノスなど、悪役界も現実に即して複雑な様相を示している。
同じくヒーローもまた単純な善玉ではキャラが立たない。70年代に悪を倒すことで手段を選ばないダーティハリーことハリー・キャラハンが登場し、ゼロ年代にはバットマンに代表されるアンチ・ヒーローが活躍している。宇宙から来た“完全無欠の善人”であったはずのスーパーマンも『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(16)で強さゆえに悩みまくっている始末だ。
各国に潜む無差別テロリストだけでなく、現職アメリカ大統領が自国民にヴィラン扱いされる現在、ハリウッド・エンターテインメントでほぼ一人勝ちなのがマーヴェル映画である。マーヴェルの異端の落とし子『ヴェノム』をはじめ、古今東西の悪役の魅力を多角的に掘り下げた「週刊文春 シネマ特別号」渾身のダークヒーロー特集も必見。映画を見る楽しみが倍増すること請け合います。
きしかわしん/1972年、長崎市生まれ。日本映画学校卒。撮影助手、出版社勤務を経て、編集者兼小説家に。映画にも造形が深く、「週刊文春」をはじめさまざまな雑誌の映画特集で執筆。著書に『蒸発父さん』『赫獣』。初短編集『暴力』(河出書房新社)が10月16日に発売。