演劇界の鬼才・松尾スズキさん。最新刊『物件漂流記』は13回の引っ越しを経て夢の一軒家に住むまでの松尾流「家の履歴書」。対談前に本を読んだアガワはある疑問を抱いていた。これって『物件女(、)漂流記』ですよね!?

温水は最初から芝居がうまかった

阿川 劇団(松尾さんが25歳で立ち上げた「大人計画」)は最初から順調だったんですか。

松尾 最初は苦戦しました。未熟だし知名度が低かったからだと思います。初めて観るお客さんからすると、笑わせようとしている芝居なのか、そうじゃないのか、よく分からなかったみたいで。コントみたいな仕立てではなく、普通の芝居の中にギャグが混ざりこむスタイルだったので。

阿川 旗揚げ間もない頃に現れたのが温水洋一さん。「劇団に入れてください」と直談判されたと。

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松尾 旗揚げ公演前に試験公演を1日しかやっていないんですが、たまたま観に来ていたんですよ。

演劇界の鬼才・松尾スズキさん

阿川 どんな印象だったんですか。

松尾 奇怪というか。めちゃめちゃ痩せていて髪はあの頃からちょっと薄かったかな。こういう風貌の人が劇団にいてもいいよなって。僕もほとんどツテがないし、旗揚げしてすぐ1人辞めちゃったから、断る理由もなかったです。最初から芝居もうまかったですし。

阿川 うまかったんだ! 売れるきっかけってあったんですか。

松尾 宮沢さんが劇評を書いてくれたことが大きかったですね。宮沢さんつながりで放送作家が観に来てくれるようになって。その縁で泉麻人さん司会の深夜番組『冗談画報Ⅱ』(フジテレビ、1988〜90)に出て、一気に笑える劇団として認知されました。

阿川 大人計画が評判になっていって、阿部サダヲさんや星野源さんなど、売れっ子をどんどん輩出されて。宮藤官九郎さんもですよね。

松尾 作家を募集していたら彼が台本を持って来たんです。20代の頃からテレビドラマの脚本を書くようになって僕よりはるかに売れていきましたけど(笑)。

家に求める条件

阿川 松尾さんも劇作家として役者としてどんどん売れて、裕福になっていくうちに住む家のグレードも上がった。下北沢内で引っ越したり、笹塚へ住んだり、三宿に家を買ったと思ったら、また笹塚へ戻ったり……。でも、住むエリアはほとんど変わらないんだなあと。

松尾 劇場が主戦場だから、そこから近いところになりがちですね。

阿川 引っ越しを重ねて家に求める条件も定まっていったんですか。

松尾 部屋で仕事ができる静かな場所かどうかは大事ですね。でも閑静なところはそんなに好きじゃない。

阿川 下北沢も三宿も飲み屋さんが多そう。

松尾 飲み屋がある街には惹かれますよね。でもその飲み屋街からはちょっと離れていたいんですけど。

阿川 他に条件は?

松尾 3・11を経て地盤が固いところがいいなと。それから床下浸水は嫌だからハザードマップ上問題がないかも、ちゃんとチェックします。

阿川 そうすると、今のお住まいは低地ではない?

松尾 高台ですね。年を取ると、災害とか厄介なものからは逃れたいなと。結婚もしましたから。