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「あれでは、ターレから荷が崩れ落ちてしまう」

 漁港から大型トラックで運ばれる魚や水産物は、まず、大卸(水産卸)に持ち込まれ、セリや相対取引を経て、仲卸の各店舗に運ばれる。1日に扱う鮮魚や水産加工物は2016年度で1628トン、青果は1021トンにのぼる。

「築地では、すべての売り場が繋がっていたけれど、豊洲では、卸棟と仲卸棟は別の建物。地下道で荷物を運ぶことになる。ところが、その地下道は3本しかない上に、傾斜がきつく、ひどいヘアピンカーブ。あれでは、ターレから荷が崩れ落ちてしまう。それに、道幅が狭くて接触事故を起こしそうです」(仲卸業者・Aさん)

 こうした初歩的な設計ミスは、いたるところで指摘されている。

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 大型トラックは、大卸のトレーラーヒットに横付けされ、横面扉が開いて、荷を下ろす。だが、豊洲の設計者は、コンビニなどを回っている一般的なトラックのように、縦付けして、後ろの扉を開き、荷を下ろすものと思い込んで設計していた。

築地市場の積み下ろし作業のスペース。かつて貨物列車のホームだった名残でわずかに湾曲している ©文藝春秋

 また、排水溝が設計ミスで浅く、詰まりやすいという声もあった。

「大量の水で魚の血や鱗を洗い流すことができないようでは衛生を保てないのに……」(仲卸業者・男性Bさん)

 市場の命は水だ。築地では真水と海水で流し清め、排水し続け、食の衛生を守ってきた。だが、豊洲は水を大量に使えば、構造上の不備で排水は詰まり、さらにはカビが出てしまう。大変なジレンマだ。

駐車場の数が圧倒的に足りない

 アクセスの点でも、問題は広がっている。

 最寄り駅はゆりかもめの市場前だが、始発でも競りの時間には間に合わない。

 東京メトロ有楽町線の豊洲駅からでは、徒歩で20分。自動車を使う場合も、駐車場からの距離が遠く、さらには、駐車場の数が圧倒的に足りないことが判明し、追加工事が急遽行われた。開場すれば、約1800台のトラックやバスが早朝から押し寄せることになるはずだが、周辺の道路環境は整っておらず、橋を渡らなければならないため渋滞が懸念されている。

築地市場から築地大橋を望む。豊洲方面に向かう環状2号線、通称”五輪道路”の一部となる ©文藝春秋

「豊洲は時間がかかるだけだと敬遠されて、誰も来なくなってしまうのではないか。市場の機能を理解せずに設計して、手直しもできないという状況だ」(仲卸業者・男性Aさん)

「このまま開場したらパニックになる。ターレの激突や床の陥没も心配だ。死亡事故が起こるんじゃないかと心配です。何より食品の安全性が保てるのか」(仲卸業者・男性Cさん)

 こうした状況を受けて、一部の業者は9月19日、「移転差止請求」を東京地方裁判所に出した。

「よもや都知事が『安全宣言』を出したり、農水省が認可を下ろすとは思えなかった。私たちは最後の手段として司法に訴えたんです。都知事は2年前に移転延期を決めた。それから状況は何も改善されていないのに、今度は何の説明もなく強引に移転を決めた」(「築地女将さん会」会長・山口タイさん)

取材に応じてくれた「築地女将さん会」会長の山口タイさん ©文藝春秋

 豊洲市場が抱える多くの問題を、どう捉えているのか。今、この状況で市場を開場することは正しい判断といえるのか。小池都知事は説明を求める市場関係者と真摯に向き合うべきである。