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本田の指示は「ミスしたら俺に笑いかけて」
すると期待通り、ケイスケホンダは監督としても常識にとらわれていなかった。たとえばマレーシア戦のスタジアムへ出発する直前、本田はホテルのミーティングでこう語った。
「今日はエンジョイすることを俺に約束して。たとえミスしてもエンジョイしよう。もしミスしたら、俺に笑いかけてくれればいいから」
ミスをしたら笑え、と指示する監督は世界でも稀だろう。ちなみにミーティングのほとんどは本田が英語で話し、マネージャーがクメール語に訳すというスタイル。本田は毎日2時間英語を勉強しており、かなり流暢だ。
スタジアムに到着すると、あらためて心構えを伝えた。
「サッカーで一番重要なのがゴールであることは、みんなもわかっていると思う。だからと言って失点しても落ち込む必要はないよ。失点してもテイク・イット・イージー。ボールを持って攻撃的に行くというコンセプトを続けよう」
とにかくこの期間、繰り返し強調したのは「苦しいときこそエンジョイしよう」。本田の人としてのモットーでもある。
「学校の先生みたいなことはしないよ」
マネジメントのスタイルにも、それが反映されている。一般的に監督は規律を保つために私生活の面で細かいルールを課すが、本田監督は一切ルールを示さなかった。
選手たちと初めて顔を合わせた日に本田は言った。
「寝不足になるからといって、夜に携帯電話を禁止した監督がいたそうだね。でも、俺はそういう学校の先生みたいなことはしないよ。だからうまく寝られなかったという人がいたら、昼寝するとか、うまく工夫して自分のコンディションをちゃんと整えておいて。自分を成長させられるのは自分だけだよ」
君たちの可能性を信じている——そんな監督の姿勢がいたる所で伝わってきた。