スポーツライターとして16年にわたって“代表チーム”を取材してきた立場から、まさか内側に入ってチームビルディングの当事者になるとは想像していなかった。
日本代表の小説が出来上がった途端、カンボジア代表に……
筆者は9月28日に小説『アイム・ブルー』を上梓して、日本でその宣伝活動に励むはずだった。サッカーW杯に臨む日本代表が崩壊しそうになるストーリーで、これまでに取材で得た“事実”を盛り込みながらチームビルディングのダイナミズムを描かせてもらった。
だが今、筆者はカンボジアのプノンペンにいる。10月から正式にカンボジア代表のスタッフになったからだ。肩書きは「Head of Team Support」である。
カンボジア代表のホテルではホペイロ(用具係)のウドン君と相部屋で、彼からトレーニングウェアを2着支給してもらった。袖を通すと、代表の一員になったという実感が湧いてくる。小説で描いた「いかにグループに一体感をもたらすか」「何かトラブルが起こったときにどう対処するか」といったテーマはもはや他人事ではない。
“監督”になったケイスケホンダ
なぜ取材者だった人間が、突然カンボジア代表のスタッフになったのか? 結論から言えば、本田圭佑から直接頼まれたからだ。
時計の針を巻き戻そう。8月12日、本田がカンボジア代表の実質的な監督に就任することが発表された(肩書きは「Head of delegation」)。メルボルン・ヴィクトリーで選手を続けながらの二足のわらじになる。
本田は指導者ライセンスを持っていないが、有資格のアルゼンチン人フェリックスをヘッドコーチとして置くことでこの問題をクリアした。フェリックスはかつてスペインや南米の下部リーグ、JFLの佐川印刷でプレーした経験があり、昨年から本田のパーソナルアシスタントを務めていた人物で、英語・スペイン語・日本語を話すことができる。
“無免許運転”の是非はあるが、前代未聞の挑戦であることは間違いない。本田監督の初采配は9月10日のマレーシア戦。筆者はその初采配を取材するためにカンボジアへ飛んだ。