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来月もカンボジアに来てくれませんか?

 そうやって取材を続け、マレーシア戦の翌日に日本に帰ろうとすると、突然、本田から呼び出しを受けた。ホテルの監督室へ行くと、真面目な表情でこう切り出してきた。

「木崎さん、来月もカンボジア代表に来てくれませんか?」

 どういうことだろう? 10月にもカンボジアは親善試合があるが、本田はメルボルン・ヴィクトリーの選手としてオーストラリアリーグの開幕を控えており、カンボジア代表には来ることができない。それでも継続してカンボジアの取材に来いということだろうか。戸惑っていると、予想もしないオファーが告げられた。

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「今回、チーム作りをしていくうえで、木崎さんの質問によってフェリックスが助けられたところも大きかったと思うんですね。だから次に代表が集まるときにも『これはどうなっているんですか?』という感じで、質問してフェリックスをサポートしてやって欲しいんですよ」

記者の「質問」がチーム作りに役立つ

 確かにこの取材中、ちょくちょく本田監督とフェリックスに質問をぶつけた。たとえば「守備で5秒ルールをやるのなら、それを成立させるためにどんな攻撃をするんでしょうか?」といった感じだ。何の不思議もない。質問こそが、記者の仕事である。

 ただ、監督から見ると、そういう質問がチーム作りをするうえで役立つ部分があったようだ。的外れな質問をして怒られることもあったが、途中から本田監督は「これに関しては質問あらへんの?」と冗談交じりに促すようになった。

 サッカーに関して記事に飽き足らず、小説まで書いてしまっていた者として、次にどんな経験をすればおもしろいものを書けるだろうかと考えていたときだった。外側から見ているだけでは、やはり書けるものに限界がある。今こそ内側に入るときだ。

 後先考えず、「はい、行かせてください」と直感的に即答した。ボランティアで完全に無給だが、それ以上のリターンを見込める。

東南アジア王者を決める11月のスズキカップへ向けて著者の挑戦は始まったばかりだ

「僕がいない間の敗戦は木崎さんの責任です」

 カンボジアは10月中旬に親善試合を2試合行い、11月にスズキカップ(東南アジアの一番を決める2年に1度の大会)に出場する。代表の活動期間は2カ月に渡り、「Head of Team Support」という役職で2カ月間プノンペンに滞在する。

 それについて本田監督へメッセンジャーアプリで連絡すると、恐るべき一文が返ってきた。

「僕がいない間の敗戦は木崎さんの責任にします。懸念点などは逐一報告を」

 こういう無茶振りこそ、笑顔でエンジョイしろということだろう。記者として得た経験と情報を生かしてフェリックスをサポートしながら、スズキカップというビッグトーナメントを楽しみたいと思う。