「あんた、ちゃんと就職活動してるの?」

 商社や都市銀行などの人気企業は、大学のランクとエントリーシートの枚数だけで学生をふるいにかけていた時代である。周囲の友人たちは何十社にも資料請求を行ない、OB訪問を繰り返し、面接対策本を読み込んでいた。一方の私は、企業から届く封筒を机の脇に積み上げたまま放置していた。

 母親が心配して声をかけてくれた。

「あんた、ちゃんと就職活動してるの?」

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「まあ、そのうちな」

 喉元すぎれば熱さを忘れるとは、私のためにある言葉だった。ようやく危機感を覚えたころには、すべてが手遅れになっていた。

 慌てて企業資料を開封してみると、大手企業の応募締切は軒並みすぎていた。

「うわ、終わってるやん」

 私は部屋で一人、呆然とした。かろうじて締切に間に合った数社へエントリーしたものの、反応は鈍かった。ようやく事態の深刻さを理解した私は、大学の就職相談窓口へ駆け込んだ。年配の職員は名簿をめくりながら事務的に言った。

「今残っているのは、中小企業と、それから証券会社くらいですね」

 その瞬間、私は初めて「就職氷河期」という言葉の意味を肌で理解した。

 帰宅後、私は残っていた会社案内を再び確認した。職員の言葉どおり、証券会社だけは大手もまだ採用を続けていた。証券業界は離職率が高いことで有名だったため、比較的遅くまで採用を続けていたのだ。

 私は深く考えず、4社へまとめて応募することにした。日興証券、野村證券、山一證券、大和証券。今思えば、業界研究も何もあったものではない。SPI対策も、自己分析もなし。就活生の定番本『面接の達人』すら読んでいない。ネクタイの結び方だけ覚えて私は面接会場へ向かった。

 それでも、人生とは妙な偶然で動く。日興証券の面接で、採用担当の副部長が私のゼミのOBだったのである。

「おっ、キミ、××ゼミなんか?」

 履歴書を見た副部長の顔がゆるんだ。

「はい」

「いやあ、懐かしいなあ。まだ××先生、元気にしとる?」