「刺繍ブランドをやっている」と両親に打ち明けたときの反応は…

――ファンや動画の再生数が急に増えた時は、ワクワクしましたか? それとも不安になりましたか?

田中 どっちもありましたね。「絶対バズるだろうな」と思っていた動画がバズった時は「マーケティングの仮説として間違っていなかった」という安堵がありました。

 でも、思っていたよりも多くの人に届いたので、自分のデザイン性の無さにもすごく臆病になってしまったといいますか、次の作品でお客さんが離れないようにするのがすごく大変でした。

ADVERTISEMENT

――起業してから、事業が「軌道に乗ってきたな」と感じ始めたのはどれくらいの期間が経ってからだったのでしょうか。

田中 最初は私一人しかいなくて固定費も少なかったので、バズってすぐの6月末くらいにはそう感じていました。それがちょうど、フォロワーが5000人くらいになった時です。それで、初めて両親に「実は、ミシンを踏んで刺繍ブランドをやっているんだよね」と話したんです。

SNSでバズった「帰りを待つわんこ」の投稿(北区の刺しゅう屋のInstagramより引用)

――ご両親は驚いていましたか?

田中 「へえ、頑張ってね」くらいの感じでしたね(笑)。

 会社としてはその後、7、8、9月の実績を引っ提げて金融機関から資金調達ができたので、11月から採用を始め、そこでようやく「会社として回りそうだな」という感じになりました。

 今は3期目なのですが、その時期の会社としては順調な売上だと思います。

「自分と目の前にいる人が幸せかどうか」が一番

――投資銀行員時代と今では、働き方が変わりましたか?

田中 変わりましたね。睡眠時間は3倍くらいになって、8時間は寝るようになりました。そもそも、以前のような過酷な働き方が、もうできなくなりましたね。

 起業してみると、本当に自分次第の自己責任なので、以前みたいに30時間以上も続けて絶対に動けないんです。どんなに頑張っても「好きだから動ける」範囲でしか動けないので、本当に集中して10時間くらいが限界だと思います。

 運動もして、睡眠も取れているので健康的に仕事ができているなと感じています。

――今は、どういう指標や目標を持って働いているのでしょうか。

田中 「自分と、自分の目の前にいる人が幸せかどうか」が一番です。5年、10年といった中長期的に見て幸せになれるかどうかなので、短期的な売上を増やすための施策などはあまりしていないんです。

 みんなが仕事を通して、ワクワクできる関係になれたら良いなと思っています。やりたくないことはやらないし、自分が目標とすることに対しては、どんなに大変なことでもやるという感じですね。

 今は6人ほどで会社をやっていますが、みんなで話し合いながら仕事ができていて、本当に幸せです。仕事も人生も「誰と何をするか」だと思うので、自分と同じようなことにワクワクできる人と仕事ができているのが、今の私の幸せです。

 

撮影=佐藤亘/文藝春秋

最初から記事を読む 「自分はただ東大生なだけなんじゃ…」東大→外資系銀行で年収1100万円→わずか9か月で退職して“刺しゅう屋”になった27歳男性が語る、学生時代の“コンプレックス”

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。