「読みが噛み合っているんですか!?」
彼らが到着してから、盤上は急展開を迎える。伊藤が飛車取りに銀を打ったのに対し、なんと藤井は飛車取りを放置して歩を突き出したのだ。國井が「えっ!」と声を上げ、高野も「すごい順ですね」と驚嘆する。だが本当に驚くべきはここからだった。伊藤の指し手が停滞しないのだ。
「読みが噛み合っているんですか!?」と二人が再び声を揃える。予想外の手順が続き、控室でも形勢判断が掴めない状況が続いたが、藤井が7筋にいる金の頭に歩を叩いた手が絶品で、皆の評価が藤井に傾いた。玉の逃げ道を潰す手筋の歩だ。左辺上部に構える2枚の銀は、玉が左上に逃げた際には堅牢な城塞となるはずだったが、この歩打ちによって玉の逃走ルートを塞がれてしまった。
ここで高野と國井が大盤解説会のゲストとして壇上へ。豊川の軽妙なギャグを交えたトークで、すでに場は温まっている。見逃せないと思い、私も会場へ向かった。話題になった昇段インタビューを意識してか、國井は「今日は失言しないように……」と当初は控えめだったが、ファンの心を掴むトーク力は抜群だった。
「学校で『炎上していたね』と同級生に言われました。先生にも『國井先生』と呼ばれまして」と笑いを誘いつつも、解説に入ると「先手は左辺の銀2枚が厚いですが、7七に(玉が)逃げられないと逆に(銀が)桂馬の跳ねる邪魔になります」と歩打ちの効果を的確に解説。マイクが電池切れを起こした際には、地声で「言うことも大きければ声も大きいので」と切り返す。高野の温かみのある語り口とのコンビネーションも絶妙で、さすが木村門下だと感心させられた。
しかし、展開は解説者泣かせだった。伊藤は、叩きの歩を取らずに金を引き、銀打ちには金を逃げて耐え忍ぶ。さら間隙を縫って馬を作り、「左辺がダメなら正面突破」とばかりに中央の歩を突いて玉を前進させていく。とにかく伊藤の粘り強い指し回しが凄まじく、展開の予測がつかない。
豊川は「伊藤さんの強さは大山名人(大山康晴十五世名人)に似ていますね。説明しにくい、わかりにくい受けの強さというか」と語った。
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