モデルから俳優へ、続けるつもりのなかった道
今月15日に52歳となった井浦にとって『ワンダフルライフ』は俳優としてのデビュー作だ。ちなみに同作では、井浦と同じく当時はモデルだった伊勢谷友介もデビューしている。制作陣にも演出助手の一人として、井浦と同い年で現在は映画監督として活躍する西川美和が、是枝に誘われて参加していた。また、井浦とはその後何度となく一緒に仕事をすることになる撮影監督の山崎裕にとっても、これがドキュメンタリーから劇映画に進出した初めての作品となった。
そうした人間関係を含め、同作への出演経験は井浦に現在にいたるまで大きな影響を残している。とはいえ当時の彼は俳優を続けていくつもりはなかった。撮影が終わったあとで是枝から「ARATAくん、これからどうするの? 役者面白かった?」と訊かれたが、「映画づくりは楽しいと感じました」と答えるのが精一杯だったという(安藤紘平ほか『映画の言葉を聞く――早稲田大学「マスターズ・オブ・シネマ」講義録』フィルムアート社、2018年)。
井浦は19歳のとき、インディーズブランドのショーに出演したところをスカウトされ、モデルの仕事を始めると、やがてパリ・コレに出演するまでになった。是枝と出会った年には、モデル仲間と一緒にブランドを立ち上げ、自分たちで洋服をつくって売るようになっていた。
「芸能界に染まりたくないし…」
そのため、『ワンダフルライフ』が公開された頃にも《今はショップの運営が楽しくて。芸能界に染まりたくないし。趣味を生かしながら会社勤めできるなんて気持ちいいじゃないですか》と語っていた(『CREA』1999年5月号)。
それでもこのあとも俳優としてのオファーがあいつぐ。是枝作品でも『DISTANCE』(2001年)で再び主演を務め、前作に続いての「芝居」をしない芝居は井浦のなかでスタンダードとなる。これについて彼は後年つぎのように語っている。

