映画『ラストマイル』が公開35日間で観客動員数324万人、興行収入46.3億円を突破するロングヒットを続けている。ドラマ『アンナチュラル』(2018年)、『MIU404』(2020年/ともにTBS系)の出演陣が一堂に会するという豪華さも話題になっているが、なぜ3作品はこれほど支持を集めているのか。その背景をライターの田幸和歌子氏が読み解く。
『アンナチュラル』のキャストのハマり具合、“予言ドラマ”と言われたワケとは……?(全3回の1回目/続きを読む)
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野木亜紀子が描いた法医学ドラマ『アンナチュラル』
ドラマ『アンナチュラル』、『MIU404』と世界観を共有した「シェアード・ユニバース作品」である映画『ラストマイル』がヒットしている。改めて驚かされるのは『アンナチュラル』と『MIU404』の人気の高さだが、振り返ると『アンナチュラル』は近年のドラマのあり方を大きく変えてしまった作品とも言えるだろう。
『アンナチュラル』は石原さとみ主演、UDIラボ=不自然死究明研究所(Unnatural Death Investigation Laboratory)を舞台とした法医学ミステリー。『アンナチュラル』が登場した2018年は「日本のドラマは医療モノや刑事モノばかり」と指摘されていた時期で、実際、『ドクターX~外科医・大門未知子~』や『相棒』シリーズなどの医療・刑事ドラマが視聴率上位をほぼ独占していた。
そうした中、『重版出来!』や『逃げるは恥だが役に立つ』(ともに2016年/TBS系)で注目を集めていた脚本家・野木亜紀子が「法医学ドラマ」を描くことには多くの関心が集まった。
それまで漫画・小説などの原作モノには定評があった野木だが、オリジナル脚本は、第22回フジテレビヤングシナリオ大賞受賞作の『さよならロビンソンクルーソー』(2010年/フジテレビ系)を除くと初めてのことだった。オリジナル作品で、それも「法医学」というテーマとの相性はどうなのか――しかし、これが大当たりだった。
『アンナチュラル』で用いられた、科学捜査で事件にアプローチする手法は、『科捜研の女』や『相棒』などでもおなじみの鉄板要素だ。それをベースとして、謎解きの面白さ、スリリングさを提供しつつも、中心に据えるのは「生」と「死」。性加害問題やジェンダー差別、労働問題、学校でのいじめなどの社会問題にも切り込みながら、その背景にある深い人間ドラマを描ききる姿勢は、視聴者を惹きつけて離さなかった。