妻に言われた「元の笠井信輔に戻ってしまうの?」
会社を辞めた直後に大病をしたということは、「会社人間としての昭和的なモーレツ男の生き方を変えなさい」という天の啓示なのかもしれないのです。がんになって、良い夫、良い父親になるチャンスを、その時間を私はもらったのかもしれません。
「あれだけの大変な体験をして、それでもあなたは元の笠井信輔に戻ってしまうのですか?」
先日、妻に言われた言葉です。かなり響きました。これまでの私は、家族のためというよりは自分のためにがむしゃらに働いてきたと言っていい人生でした。
会社を辞めた今、新たに命をいただいた今、もう少し周りを見て余裕のある働き方、生き方をする、そんな人生ならば、自分の先には幸せが広がっているのではないかと思うようになりました。
そんな人生を歩みたい。
でも結構大変だと思います。
半年間仕事ができないことによって私はゲートの中でスタートの合図を待っていきり立つ競走馬のような精神状態になっているのです。今までの分を取り返そうとまた猛烈に働きたいと思っている自分が一方にいるのです。
しかし、そんな働き方をしていたらまたすぐに体を壊してしまうことは目に見えている、と妻は言います。そこそこの忙しい生活にならないかな? そんな都合の良いことも考えます。
これからの人生はもっともっと家族の笑顔を見ていたいのです。
線路のポイントを切り替えるような「生きる力」
正直言って病気になる前は、たくさんたくさん働いて人気者になるのが夢でした。求められていない作業にまで手を出して評価とスキルを上げようと、がむしゃらになっていたサラリーマン局アナ時代でした。それはそれで一つの結果となって私の局アナ人生の支えとなっていました。
しかし悪性リンパ腫というがんは「そうではない生き方が、次の人生の幸せなのかもしれない」と気づかせてくれました。
人生観が変わるというのはこういうことなのでしょう。ガラッと変わるのではなく、これだけの大病をしたのだから、少し別の生き方をしてみようかと、線路のポイントを切り替える力を与えてもらったということ。そのポイントを変える力こそが「生きる力」であり、そういう新たな人生を選択する力を、私は悪性リンパ腫に与えてもらったのだと思っています。
おそらく簡単にはそのポイントは切り替えられないでしょう。ポイントを切り替えた先の線路がまだまだ建設中だからです。これまでのがむしゃら路線の方がしっかり強固に先が見えています。こうすればこうなるということが経験によってわかっています。
でもそれでは何も変わりませんし、面白くありません。
自分の中に生まれた新たな「生きる力」で今まで自分が選ぶことのなかった道を歩みたい。がんによって与えられた力によって、「新しい笠井信輔」を家族にも、皆さんにもお見せしたい。いまは、そんな風に思っているのです。
