月刊「文藝春秋」編集部が選んだ文藝春秋「特選記事」(10月号)を公開!(初公開日 2018年9月21日)
東関東湾岸線の湾岸市川インターで下り、国道を北上すると千葉県鎌ケ谷市に出る。ZOZOTOWNを運営する「スタートトゥデイ」社長の前澤友作(42)の生誕地を訪ねるべく、東京の都心から車で1時間余り走った。電車だと新京成「鎌ヶ谷大仏駅」から徒歩10分ほど、古い日本家屋と真新しい建売住宅が混在し、近くの農産物直売所では、名産の二十一世紀梨が売られている。都心近郊のベッドタウンによくみられる長閑な田舎の風景が広がっていた。
昨年3月の米フォーブス誌における世界長者番付で630位にランクインし、現在の個人資産は5000億円を超える。高卒のパンクロックミュージシャンから起業して成功をおさめ、人気タレントをはじめ数々の女性と浮名を流してきた。今を時めくZOZOの前澤は、波乱に満ちた成り上がり神話に彩られている。だがその一方、育ってきた環境は意外に平凡に感じた。
ごくふつうのサラリーマン家庭だった前澤家の長男として、鎌ケ谷で生まれ育った。本人が通った鎌ケ谷市立の東部小学校や第二中学校は歩いてすぐのところにあり、近所の住人はときおり兄弟でキャッチボールしている姿を見かけたという。実家の二階建ての木造家屋は起業した2年後の2000年に建替えられ、小さくはないが、周囲の家と比べて取り立てて豪邸というほどでもない。両親は5年ほど前にそこから引っ越して空き家になっている。ただし家を売る気もないそうで、町内会費もいまだに欠かさず納めているという。