結婚の決め手になったのは……
阿刀田 この人と結婚してもいいかなと思ったのは、なんだか不幸がよけて通るような人だったんですね。そろそろ結婚しようかと声をかけたら、父に会ってみてくれと言われ、会ったところ、合格しまして。
内田 結核の治癒証明書をお持ちになったそうですね。
阿刀田 父親が求めるのは羊羹や最中でなく、これだろうと思いまして。後になって義父も「あれは良かった」って言っていました。
内田 治癒証明書が決め手。これを持っていこうという発想が、さすがです。
阿刀田 その辺がやっぱり合理を重んずるところだったんでしょうね。
内田 そんな阿刀田さんは奥様と60年も一緒に家庭を育まれました。私は19歳で結婚したのでまだその半分です。夫(本木雅弘)は10歳年上で、新婚当初から結婚ってこんなはずじゃなかったと不満をぶつけては夫婦ゲンカが絶えなかったんです。結婚というのはなかなか大変なものだなと思っているのですが、阿刀田さんにとって結婚とはどういうものでしたか。
悪い人だと思わなければ、相手は私の前では悪い人じゃなくなる
阿刀田 一生において、伴侶を得て、子どもを得て育てるということをまあまあ実践して、そんなに悪くなかったと思います。家内は普通に誠実であることが好きだったから、ブラックユーモアなんか好きじゃないんですけどね(笑)。
内田 阿刀田さんとはだいぶ違いますね。
阿刀田 違ってもなんとかやってこられたのは、あなたの考えがそうならそれでいいし、私と一致しなくたって人生にはそのくらいのことはよくあるよと、トラブルになるようなことも「まあまあ」で収めてしまったから。
内田 私は問い詰めたくなるんです。
阿刀田 私はいい加減なんですよ。
内田 でもいい加減はいい塩梅でもあるわけですから。
阿刀田 そうなんです(笑)。そのおかげか、私は生涯を通じて悪い人に会ったことないんですよ。これが人生訓でね。悪い人だと思わなければ、相手は私の前では悪い人じゃなくなってくれます。この人は悪い人だなと思うと、その人は悪い人の実力を発揮しちゃうんですよ。
