朗読がある意味、病気を進ませたところも
阿刀田 生きがいになったと思うし、本当によく頑張ったと思います。内心、もっと認めてもらってもいいのにと思っていたかもしれません。あの鴨下さんが認めてくれたのだから大したものなんですが、なにしろ隣ではちょろちょろっと書いて宝くじを当ててしまうヤツがいるもんだから、悔しかったのではないか。晩年の家内はレビー小体型の認知症だったのですが、私にはもしかしたら本当はそう思っていたのかもしれないなと感じる出来事もありました。
内田 ライバル意識もあったのかもしれませんね。妻だって頑張っているんだという気持ちは私にも分かるような気がします。
阿刀田 私も家内を応援したんですよ。まあ、どう頑張って応援しても赤字でしたけど。鴨下さんにはやりたいようにやっていただきたかったし。
内田 鴨下さんはTBS時代に、母(樹木希林)が『ムー一族』などでお世話になりました。鴨下さんの理想を全て実現すると赤字ですよね。
阿刀田 そうなんです。村上春樹さんの作品を読もうと思ってもなかなか許可が下りないんだけど、私がお願いしたら許可してもらえた。でも鴨下さんが嫌だっておっしゃったなんてこともありました。
だけどある意味、病気を進ませたところもありますね。認知症に気づくのが遅れた。朗読の舞台に1人で立って、全責任を負ってやるということは、精神的には結構キツかったはずです。
上演の日が迫ってくると、ちょっとヒステリックになりました。本番を前にすればそういうもんだろうと思っていたけど、あの頃から病気が始まっていたのかもしれません。
内田 レビー小体型認知症は進行が早いと聞いたことがあります。でも比較的よく知られているアルツハイマー型とは違い、どういう病気なのか、よく分からないですよね。
阿刀田 そうなんですよ。家内は施設に入ってから、私が会いに来ることが一番の喜びなんだということは分かりました。だからもう絶対に先に死ねない、病気になってもいけない。痛切にそう思いました。結婚っていうのはずいぶん重い責任を背負うことだなと思いましたよ。
※60年間連れ添った妻が旅立って1年――阿刀田さんの現在の生活や心境についても触れられた記事全文は『週刊文春WOMAN 2026秋号』で読むことができます。
