――飯塚幸三という人物を知るために、彼の獄中日記、さらには少年期から壮年期の日記を、守田さんは入手して読まれます。1939年(7歳)から1968年(37歳)、そして事故から11日後の2019年4月30日から服役中の4年4ヶ月後の2023年9月9日までの日記です。これが本書の凄みでもある。守田さんが取材で見た彼の姿や彼からの手紙と、その時の飯塚氏の心情を突き合わせていく。

守田 飯塚氏の93年の生涯には、いろいろな出来事があった。業界団体の会長になったり、勲章を受けたりしたことで「上級国民」とのレッテルを貼られますが、不正によってその地位を得たのではない。一人の人間がどういう人生を歩んできて、仕事や家族とどう向き合い、自動車の運転を含めた自分の老いとどう付き合ってきたのか、それらを書き切ろうと思いました。

 前篇でも話しましたが、被害者遺族をかわいそうな人と報じようとして、遺族だけを取材しても、この事故を取材したことにはならないんです。飯塚氏についても、徹底的にファクトを積み上げていって、この事故を書くことは、高齢ドライバーの問題だけでなく、高齢受刑者や加害者の家族の実相を書くことにもなる。

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 あとは読者に判断してもらおうと思いました。

飯塚幸三氏の実況見分時(撮影=吉田暁史)
 

「松永さんの闘いはまだまだ終わらないし、終われない」

――そうして書き上げた『池袋高齢者暴走事故』への読者からの反響は?

守田 高齢の親の免許返納に苦労したことや、これから直面することへの問題意識が強くなったという感想をくれる人が多くいます。地方ですと、車がないと生活していけない現実がある。そこで暮らす親に免許返納させることの限界や返納後の生活について、この本が少しでも考えるきっかけになればと思っています。

――私は本書を、日常の連続性が途絶えた時、予定される未来が壊れた時、その後を人はどう生きるのか、を書いたノンフィクションだと読みました。

守田 人間の根源的な問題といいますか、苦難に直面した時に、逃げることのなかった松永氏や飯塚氏の長男の姿から、人はどう生きるべきかを感じ取ってもらえると嬉しいですね。悩みや困難を抱えている方にぜひ、読んでいただければと思います。

 私の池袋暴走事故の取材は終わったわけではないんです。その場限りの表面的な上澄みのような取材ではなく、人とはできるだけ長く付き合うということが大切だと思っています。

 松永さんの闘いはまだまだ終わらないし、終われない。飯塚氏の長男の葛藤も続いている。これからどう生きていくのかを取材していきます。

最初から記事を読む 「妻と娘を殺された者」と「殺した者」の長男が3時間対話…池袋暴走事故を2060日取材したTBS記者が明かす、〈被害者と加害者家族〉の知られざる対面

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。