もともとは「1匹5円」の売れない魚だった

 久礼で生まれ久礼で育った田中鮮魚店の4代目・田中隆博社長によると、今でこそ観光コンテンツとなっているメジカの新子だが、以前は「邪魔者」として扱われていた。

 他の魚と一緒に獲れるものの、新子は極度に傷みやすい。値段がついても良くて1匹5円程度、保存用の氷すら勿体なく、食用できる新鮮な数匹だけをつまみ上げて食べるような状態であったという。また「すぐ傷む=食中毒を起こしやすい」風説が根強く、田中社長は「(食べて体調を崩さないように)大人になるまで食べさせてもらえなかった」と振り返る。

田中鮮魚店・田中社長(同前)

 ところが、漁師の男衆が避けている間に、皮や血合をこまめに取る食べ方を、漁師の留守を守る女性たちが確立していった。その結果、いつしか市場で提供されるようになったという。

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 そうして日の目を見たメジカの新子は口コミで評判が広まり、「この味を全国区に!」と、特殊な氷を使って空輸する方法を確立、10年ほど前に東京への出荷が試みられた。……のだが、ここで「輸送中に独特の食感が消えて、ただのカツオになってしまう」(田中社長)ことが発覚してしまう。

 売り出し計画が振り出しに戻ったところで、久礼の顔役として知られる元漁師の漫画家・川島昭代司さんのひとことが、その後のメジカの新子の運命を決めた。

「持っていけんがやったら、久礼に来てもろうたらええろう?」

 土佐弁を翻訳すると「出荷できないなら、久礼に食べに来てもらえばいい」。他所への出荷を控え、現地での参戦必須なグルメとして最高に新鮮な状態で食べてもらう。この稀少性がゆえに、観光コンテンツと化していったわけだ。

 近年はIターン・Uターンで久礼に住む若い世代が、率先して発信の仕掛けを作っている。「SNSの普及とともに、メジカの新子や『カツオの街・久礼』が知れ渡るようになった」と、目を細めて笑う田中社長の表情が印象的であった。高知県内の他の漁港が活気を失う中で、久礼は若い世代の活躍とメジカの新子を中心とした新鮮なカツオの観光資源化で、何とか極度の衰退から踏みとどまっているという。

もちろん通常もおいしい。写真は田中鮮魚店直営の食堂でいただいたカツオのタタキ(同前)

 なお、近年は9月末から10月にも漁獲があり、シーズンを少し長く楽しめるようになった。ただし行っても食べられる保証はないので、くれぐれもホームページで漁の動向を確認してから足を運ぼう。とはいえメジカの新子がなくとも、新鮮で絶品なカツオのタタキで十分に満足できるはずだ。

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