迷った末、手術したものの「思ったように歌えなくなった」
――治療について、気がかりだったことは何でしたか。
伊織殿 手術をすると、その後いつ歌えるようになるかわからないと言われたんです。最初は「手術をせずに歌い続けて、そのまま死ぬのもロックかもしれない」なんて考えも浮かびました。
でも、病気が悪くなっていく可能性について聞くうちに、やっぱり長生きしたいと思った。それで手術することを選びました。
――手術を終えてからは、順調に回復されたのでしょうか。
伊織殿 思ったように歌えなくなりました。前なら普通に歌えた鼻歌すら出ない。「こんなことになるんや」と絶望しました。自分の感覚では、普通に歌えるようになるまで1年半から2年くらいかかったと思います。
例えて言うなら、喉のあたりをずっとぎゅっとグーで押さえられているような感覚でした。話すだけでもえずきそうになる。少しずつ声を出して慣らしていこうとしても、良くならなくて。ストレスで自分の喉を殴ったこともあります。でも、回復を待つしかなかったんです。
――生活や仕事にも影響はありましたか。
伊織殿 当時は保険も解約していて、お金が下りなかったので、とにかく生活費が必要でした。退院後、清掃のアルバイトにも出勤しましたが、掃除をするだけで吐いてしまうほど体が弱っていて、続けられませんでした。
だったら音楽活動をするしかないと思って、ステージに戻りました。声を出すと吐いてしまうので、歌は口パクにして、お客さんに助けてもらったこともあります。それでもステージを降りると吐いていました。
地方のライブへ行ったときには、駅に着いてからキャリーケースを引いて歩く体力もなくて、ベンチに寝たら人に迷惑がかかると思い、ロータリーの脇の道路に寝転んで休んだこともあります。

